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4年ぶりの日本 その1

2013.06.25 (火)


JFKに向かう車中で、私は長男に言った。

「お母さんは飛行機に乗ったらすぐ薬を飲むからね。飲んだらどうなるかわかってるでしょ。あとはよろしくね。」

平日の午後早い時間だったのに、料金所や空港付近は大渋滞だった。夫が運転していたらかんしゃくを起こす。夫が帰るころはちょうど夕方のラッシュアワーかもしれない。私はこんな時間のフライトを選んだことを改めて悔やみ、夫に謝った。

夫は「このへんはいつだって混むんだよ。しょうがない」と珍しく寛容だった。しかし、私には帰り道、夫が怒り狂っている様子が目に浮かんだ。

空港に着いて、荷物をトランクから出し、夫が運転席に座った。律儀な長男はわざわざ夫のところに回り、夫もいったん車から下りて長男をハグした。そばに立っていた私は「今朝はありがとう。本当に深刻なパニックだったのよ」と夫にハグした。運転をしながら、夫にお礼を言いたいと考えてはいたが、ハグはごく自然な動作だった。

夫はまた驚いたふうだった。

私が自分からそんなことをするなんて、15年ぶりかもしれない。いや、長男の年を考えたら、もっと前か。

「今朝もハグしようと思ったけど、きみがいやがるかと思ってね。あれでよかったのかな」と背中を撫でさすっただけだったことを弁解した。

私は頷いた。

もう十数年も別の部屋で寝起きしている私たちには、身体的接触がほとんどない。いくらパニック状態でも、夫がそれ以上のことをしたら、私は反感を持っただろう。いてもたってもいられず、自分でベッドにもぐりこんでおきながら、私はどこまでも自分勝手である。


         *


チェックインをしたら、もう後戻りできない。さすがに覚悟ができた。

夫が言い聞かせるまでもなく、長男はたいそう頼りになった。誰でもわかるはずの空港内でも方向感覚が狂う私は、案内図を見てさらに混乱する。考えるのもめんどうで、ずっと長男の後をついていくことにした。

空港のフードコートでまずくて高いものを食べて、また文句を言い、ゲートから機体へ向かう通路の匂いがどうにもいやで、 屠殺場へ引っ張られる家畜みたいな気分になり、「お母さんはね、この通路を歩くとき『まだ間に合う。今ならUターンできる』っていつも考えるのよ。頭では、そんなことできないのはわかってるの。でも、どうしても考えるのよ」と言うと、「お母さんは、まったく、もう」と長男はため息をついた。

チェックインの際に、窓際の二人掛けに変更してもらったのはいいが、背もたれがあまり動かせないところだった。

「なによ、あのグランドホステスは!ちゃんとリクラインできるところでしょうね?って私が聞いたでしょ。一番後ろから3列目ですから大丈夫ですって、自信たっぷりに言ったじゃない? でも、この後ろは席じゃなくて、壁じゃないの! 信じられない! 13時間もこんなとこに座れって言うの?」

まくしたてる私に、長男は落ち着いていた。

今思うと、ああやって文句を言えたのはパニック症状を脱した証拠である。

「お母さん、少しは後ろにできるよ。他のところと同じだよ。どこだって同じだってば。二人の席でいいじゃん。窓と通路とどっちがいい? ぼくはどっちでもいいよ」と言ったので、ずっと寝るつもりの私は窓際に陣取った。

二人で並んで座るのは不思議だった。

長男と二人だけで飛行機に乗ったのはいつだったか、次男が生まれる前、長男が1歳のときに里帰りして以来だと思い出し、次男を置いてきたことをひしひしと感じた。


          *


そして、薬を飲み、まもなくうとうとして、5時間ほどして目が覚め、また薬を飲んで、着陸の少し前までずっと寝ていた。

例によって薬の効き目は強く、目が開いて体が緩慢に動いても、頭の中は霞がかかったようで、パスポート・コントロールや税関はもちろん、ホテル行きのシャトルバスやホテルのフロントなどの記憶はほとんどない。

預け入れ荷物が出てくるのを待っていたとき、「お母さん、ここから動かないで。ぼくがスーツケースを持ってくるまで、ここに立ってて」と長男に命じられたのは覚えている。

あの薬を飲むなら、一人で旅行してはいけない。誰かが同行するか、せめて空港に迎えに来てくれないと危ない。

パニック・アタックのための薬は、これまでカリフォルニアに行ったときしか飲んだことがない。今回、初めて日本への往復で使ってみて、体の疲れが格段に少ないのに驚いた。高度が下がり始めて着陸するまでの不快感を解消するために処方してもらったのだが、疲労や腰痛などいつもの症状は非常に軽かった。前後不覚になるほど深く眠るせいだろうか。

この薬がますます手放せなくなった。Controlled substances(規制物質)の一つで、処方箋が必要なのはもちろん、ファクスや電話では受け付けてもらえない。

何が入っているのか知らないが、私には恐ろしいほど効く。


          *


翌朝の記憶もおぼろげである。

ホテルのビュッフェで朝食を取り、9時半にはホテルを出て、シャトルで再び羽田に戻った。計画性ゼロだが、横浜のホテルに行くには羽田からのバスが一番簡単だと姉が言うので、それに従った。

その前に羽田で携帯を借りねばならない。

事前に予約したので、受け取るだけなのだが、場所がわからない。出発前にネットで調べたのに、いつもの方向音痴に加えて薬のせいでまったく思い出せなかった。

私は人に尋ねることに抵抗がない。どこに行っても、やたらと人に聞く。40過ぎたら、そんなこと恥ずかしいともなんとも思わない。無駄足を運ぶよりはずっと効率がいい。案内図を見ても混乱する人間には、具体的に教えてもらわねばならない。

すぐそこにインフォメーション・デスクが見え、「聞かなくたってわかるよ」としぶる長男を無視して、「ソフトバンクのお店はどこですか」と聞いた。

私が近づくと、制服を着た小奇麗な娘さんがにっこり笑って立ち上がり、「おはようございます」とお辞儀をした。「こちら左手にお進みになって、まっすぐ、つきあたりにございます」と指を揃えた手で私が行くべき方向を指し示し、またにっこりした。

私は感激した。

なんて愛想のいい、親切な人! きれいにお化粧をして、清潔な制服で、なんとも可愛らしい! 高めの声も相まって、まるで小鳥だ!

アメリカにも親切な人はいるが、この日本の丁寧な口調と物腰は独特なものである。

案内は彼女の仕事であって、にっこりしようがしまいが、お客に正しい場所を教えさえすればいいのに、100点満点の作法である。


       *


お礼を言って、教えてもらった方向へ進むと、すぐにわかった。空港の規模が小さいのだろうか。

ソフトバンクのカウンターで名前を告げると、こちらでも丁重にてきぱき対応してくれた。

最初は普通の携帯を予約したものの、姉と合流するまではスマートフォンがないとさすがに長男も迷うだろうと出発直前に変更したのだが、「承っております」と何の問題もない。宅急便で返却するにはどうすればいいかと聞くと、これまた丁寧に教えてくれる。

そして、小さい布のバッグにはiPhone 4Sと充電器と書類がきれいに収まり、もっと大きな箱を想像していた私は「これだけでいいんですか」と頓珍漢な質問をした。

お店の人は私の質問の意図がわからないようでちょっと首を傾げたが、「はい、それだけで大丈夫です」とおのぼりさん丸出しの私に「心配いりませんよ」と言いたげににっこりした。

それからバスの切符売り場を探し、切符を買って、乗り場を探し、しばらくするとバスがやってきた。そして、運転手の丁寧な挨拶(お辞儀付き)と案内を聞きつつ、清潔なバスは時刻表ぴったりに出発した。


         *


こうやって、空港を出る前から私は感動しっぱなしだった。

「さすが、日本ね!親切で礼儀正しくて時間通りで!インフォメーション・デスクの女の子、可愛かったじゃない?細かったわねー。あんなに愛想のいい案内係なんて、ほんっと久しぶりだわ!確か二人いたと思うけど、区別できないくらいそっくりな髪型とお化粧だったじゃない?あれが今の流行なのかしら。このバスだってきれいよねえ。あちこちの表示も親切でわかりやすいし。気配りがいいのよ。っていうか、アメリカが適当すぎるんじゃない?」と、さっそく携帯を試していた長男に延々としゃべり続けたらしい。

あとになって、私は薬が効いていると、ぼんやりしているわりにペラペラしゃべると長男に言われた。話は脈絡がなく、たまに支離滅裂なことも口走るらしい。

長男はそんな私を見慣れているので、好きにしゃべらせておくのだそうだ。

パニックで追い詰められて悲愴な顔をしている私より、薬で舞い上がっている私のほうがまだしもマシなのかもしれない。



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 |  わたし  |  コメント(2)

Comment

危機??は過ぎ去った感じでよかったです。
家族はみんなkometto3のことを大切に思ってくれているのですね。
よく理解もしてくれてますよね。
よかった。
lumama |  2013.06.25(火) 22:48 | URL |  【編集】

初めてコメントさせていただきます。

長男くん、頼りになりますね、
日本滞在を楽しんでください。
YUka |  2013.06.26(水) 18:20 | URL |  【編集】

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