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情緒不安定

2013.05.19 (日)


ボストンに行く前の夜、いつものようにバイオリンを聞いてからパソコンをしまうと、なぜかとても悲しくなった。

うれしいドキドキわくわくはどこに行ったのか。寝付くのに時間がかかり、翌朝も早く目覚めてしまった。でも、悲しい気持ちは消えていた。

予定より1時間遅れて、ボストンへ出発した。

夫のCDを全部バロックと他のクラシックに入れ替え、これから3時間バイオリンが聞けるとうれしくなった。2時間半のハイウェイは私の担当。

次男の病院までハイウェイ3本を乗り継いで片道1時間かかる。もう半年近く、毎週運転していたおかげで、長距離運転にも慣れてきた。

夫ははなっから運転する気がない。ときどきいやになるが、そういう夫のおかげで私の運転が上手になり、あらゆる交渉事やお医者や学校なども夫がやらないから私がやらざるを得ず、アメリカで生きていく上でいい訓練になったのは確かだ。

夫は「1時間はlong distanceとは言わないよ」と呆れていたが、生活範囲の狭い私にとっては充分遠い。ハンドルを握りつつ、我ながら信じられないと思う。アメリカに来て30歳直前に免許を取った。それまでどっちがアクセルでブレーキだかも知らなかった。

「お母さん、運転できてよかったわー。英語も話せてよかったわー」と次男に会うと言わずにいられない。アメリカ生まれの子にはわからないだろう。

次男をボストンに連れて行きたかったが、外出許可が下りなかった。


        *


空っぽの車に夫と私だけが乗り込み、「ぼくのCDはどこへやった?」だの「猫のお昼ごはん、あげるの忘れた」だの、たわいないおしゃべりをする。

この頃、私たちの間は平穏である。

変則的ではあるが、「空の巣」になってしまい、長男が生まれる前のような錯覚に陥る。この生活も悪くないなと思う。

「なんだかすごく年を取った気がする。信じられる? 私たち、大学生の息子を寮までお迎えに行くのよ?」と私。

「長男を抱いて、今の家に引っ越してきたのを思い出したんじゃないか? こういう歌をよく歌ってたなあ」と夫は日本の歌を口ずさむ。私はアメリカの子守唄なんて知らなかった。

私の目に涙がにじんだ。

サングラスをしていたし、夫は本を読んでいたから気がつかなかったと思う。そして、昨晩の悲しい気持ちがよみがえった。

私は長男が育ってしまったのが寂しいのだろうか。もっとああしていれば、こうしてやればと後悔してばかりで悲しいのだろうか。次男がいつまでも退院できないのがやるせないのだろうか。

しかし、泣いていては運転できない。私はCDの音量を上げて、気を取り直した。


        *


大きい街の周辺や料金所以外には渋滞もなく、2時間半近く、一度も休まずに運転した。

ボストン・ケンブリッジ方面へ降りる手前の休憩所に着き、長男に電話したが出ない。まさか、まだ寝てるんじゃないだろうか。夫は「カフェインがないと運転できない。腹も減った」と、こんなところまできてマクドナルドでフレンチフライとコーラを買う。

「長男がよく行くジャパニーズ・レストランに連れて行ってくれるって言ってるのに」とたしなめると、「連れて行くっていうか、案内するだけだろう」と夫。そりゃ支払いは私だけど。

夫が街中を運転してくれるのはいいが、注意力散漫で短気な運転手の横はストレスがたまる。

ハイウェイの出口からすでに渋滞が始まり、夫は横入りする車をののしり、私にストリート・サイン(道路の名前)を読めと命じる。

そういう夫には慣れているので、適当にあしらう。だいたいグーグルマップとGPSと実際の名前がかならずしも一致しない街なのだ。途中で左折のみの車線に入ってしまい、やり直しになったが、GPSのおかげでパニックにならずにすんだ。

車中からまた長男に電話した。

「いまハーバード・スクウェアまで来たわよ。すごい渋滞。寮に近づいたら、また電話するから」と私。

「わかった。ぼく、すごい鼻水で喉が痛い。まだ片付けてるんだけど。掃除機もまだだし。風邪かも」とやたら言い訳をする。


          *


どうにか寮の裏手に駐車スペースを見つけ、長男の部屋に向かう。

ドアの外に夜逃げみたいな大荷物があって、私は「倉庫にふとんとシーツを入れるべきか」という相談の電話以来、またしても絶句した。

600ドル近く払った貸し倉庫はどうなった? 室内物干しとかシャワーキャディとかランプとか、ぜったいに来年も使うものをなんでまた家に持って帰らなくちゃいけないのだ? これだけの荷物がアコードのセダンに収まるだろうか。しかも、部屋の中にもまだいろいろあるのだと言う。

電話での言い訳の原因はこれか!

呆然としていると、どこかから男の子がやってきて、「長男君のお母さんですか」と握手する。「初めまして。マイケルです。長男くんの向かいの部屋で1年間いっしょに楽しく過ごしました。本当に素晴らしいお子さんをお持ちですね!」と私の手を離さない。

私は面食らった。いまどきの大学生はこうなんだろうか。

おせじでも私はうれしくて、つい「サンキュー」とにっこりしてしまう。

それからが大変で、3階から荷物を運びおろし、夫がああでもない、こうでもないと車に詰め込み、私は部屋に掃除機をかけた。

ルームメイトのジョンがすでに寮を出てしまっていたのは残念だった。もう学年末で、この寮にもあと5人しか残っていないということだった。

寮のアドバイザーでもある女学生が来て、長男に書類を渡し、サインさせた。「携帯の番号はもっとはっきり大きく書かないとだめよ」と言いたいのを我慢して見守る。

夏の間に業者が消毒して、9月には新しい学生が入るのだ。

なぜかまた涙が出そうになった。


            *


やっとすべての荷物を積み込み、車はそこに置いて、長男の案内でジャパニーズ・レストランへ向かう。

「ぼくの足なら6分くらいだけど」と言ったので歩くことにしたのだが、ずいぶん遠い。私は空腹だし、夫は歩くのが遅いし、なんだか暑い。夫は長男と話しながらのろのろやってくる。私は一足先に木陰で待ちながら進んだ。

そして、長男のデビットカードによく出るドラッグストアやピザ屋の看板を見つけ、しばし感慨に浸る。

レストランというよりフードコートみたいなところで、テーブルはガタガタ、水を頼めばプラスチックのコップ。ダイエット中だが天丼を頼んだ。長男が言うほどおいしくない。でも、両親を連れて自分の行きつけの店に来たのが誇らしそうで、私はおいしいと褒めた。

お腹がくちた帰り道はもう少し余裕ができて、今度は私と長男がおしゃべりをして歩き、夫はあとから遅れてついてきた。

長男は「ぼくがラーメンを買うお店は、もっとずっと向こう」などと説明してくれる。

そして来年の寮の話をした。

今年のルームメイト、ジョンといっしょになるつもりが、ジョンは他の子から3人部屋に誘われ、長男を入れるつもりがすでに他の子に決まっていて、さらに4人部屋しか空いてなく、くじ引きの順番がどうのこうのと、ややこしい話だった。長男は別の子と二人部屋に住むらしい。

「あら、ジョンと一緒がよかったのに」と彼のファンである私は残念だった。いいルームメイトが寮生活の鍵だと思うので、来年が心配になった。

「うん、まあぼくもジョンも早く相談しなかったからいけないんだけど。でも、ぼくの今度のドームもわりといいとこだよ。それでね、お母さん、ジョンがアパートを見つけたんだって。3年目はいっしょにアパートを借りようって話が出てるんだけど。ケンブリッジは高いから、もっと安いとこ」と、私の反応を伺う長男。

大学寮のほうがいいんじゃない? 管理もしてくれるし、キャンパスに近いし、なんたって安全よ?

でも、私の口から出たのは、「そうね。それもいいかもね。」

最初の2年だけ寮生活で、あとは友達とアパートや一軒家をシェアするのはよくある。そのほうが安いときもあるし、夏に3ヶ月出なくてはならない寮と違って、家賃を払えば1年中住める。ジョンと一緒なら、大丈夫かもしれない。

なによりも、それも自立への階段である。

突然、私をアメリカに送り出したときの両親を思い出した。24年前、「いやんなったら、いつでも帰って来りゃいいで」と彼らは言った。そして、5年後に長男が生まれたとき、「子どもができちゃあ、まあずっとアメリカに住むだなぁ。日本には帰らんだなぁ」と言った。

そして、その通りになった。


           *


ケンブリッジ市内は帰りも大渋滞。どう考えても、車のために作られた街ではない。広くもない道路の両側は縦列駐車がびっしりで、しかもあちこちで工事中のために一車線だったり、夫のイライラが手に取るようにわかる。

長男が「ここ、まっすぐ行って。もう少し行くと、川だから。その先で左」と案内してくれる。

すっかりこの街になじんだようで嬉しい。頼りないようでも、しっかりしてきたか。

ハイウェイの最初の休憩所で、私が運転を交代した。そこから2時間半のはずが、料金所あたりで渋滞し、その後も何度か流れが悪く、いったいみんなどこへ出かけるのだろう。

コネチカットの州都ハートフォード付近ではちょうど金曜日夕方のラッシュアワーにかかったらしく、30分も無駄にした。

結局私は3時間以上運転を続けた。助手席の次男はハイウェイに乗ってからすぐに眠りこけた。きっと前日は寝ずに部屋を片付けていたのだろう。夫は後ろでいびきをかいていた。

せっかくのヴィヴァルディも音量を下げねばならず、眠らないようにダークチョコレートをかじりながら、ひたすら家を目指した。


       *


今日はとても次男の病院まで行けない。往復2時間運転する気力も体力もない。

里帰りのしたくもお預けで、ともかく回復に努めねばならない。次男は長男に会いたがるので、明日の午後連れて行くことにした。

昨日の悲しい気持ちはもうそれほど残っていないが、いつも通りに抗不安薬を飲む。そして、ベッドのヘッドボードにもたれてパソコンを開き、美しくも憂いに満ちたバイオリンを聴く。



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