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バイオリンに酔う その3

2013.05.13 (月)


私は昔からあまり周囲の事象に関心が持てない。

小学1年生の通知表に「もっとまわりのことにきょうみをもちましょう」と書かれたくらいである。自分ではそれが普通だと思っていた。他の人は違うらしいと気がついたのは、ずっと後のことである。

アメリカに来て間もなく、義父がアトランタからアラバマ、テネシーを運転しながら、その土地の風景や歴史などを説明してくれたが、右の耳から左の耳へ通り抜けた。あちこちの集まりで紹介してもらっても、誰もが透明人間。どうでもよく、何も頭に残らない。義母がカリフォルニアの庭園に連れて行ってくれたが、じっくり花を観る彼女を置いて、私はスタスタ歩くだけ。察しのいい義母は「あなた、ぜんぜん見てないわね」と笑った。

しかし、そういう人間に限って(それだからこそ?)いったん火がつくと手に負えない。10年に一度くらい燃えさしにガソリンを降り注ぐような状況に陥る。

デイヴィッド・ギャレットがそれである。

1日中、ネットに大量に出回るビデオを見て、記事を読む。

大学の第2外国語で取ったドイツ語はまったく役に立たず、ダンケ・シェーンとフィーレン・ダンクしかわからない。いちいち英語に機械翻訳しなくてはならない。ああもっと真面目にやっていればと悔やむ。

もっとも、YouTubeのコメントは主にファンの書き込みで、感嘆符とハートマークが飛び交い、各国語でファンタスティック!ビューティフル!ゴージャス!アイ・ラブ・ユー!マリー・ミー!と書いてあるだけなので、訳すまでもない。


          *


そうやってバイオリンに聞きほれていた私だが、彼のパフォーマンスやインタビューを聞けば聞くほど、この人は寂しいんだなと思えてきた。

コンサートで多大なサービス精神を発揮し、気さくにインタビューに応じ、率直すぎるほどいろいろ話す。それどころか、ドイツのくだらない番組に出演したり、名曲のほんのさわりだけ弾かせるショーに出たり、低俗なインタビューを受けたり、そんなに人を喜ばせる必要がどこにあるのか。

クラシックでは神童と称えられ、クロスオーバーでもドイツのエコーという由緒ある賞をもらい、CDもチケットも売れているのに。

イギリスの番組では、リムスキー・コルサコフの「熊蜂の飛行」を世界最速スピードで弾くという曲芸をして、ギネスブックに載った。なぜそんな仕事を引き受けるのか。

クロスオーバーをやるのは、若い人たちにクラシックを知ってもらいたいからだと彼は言う。一方で普通のクラシック・コンサートもやっていて、現在の活動の7割は純粋なクラシックである。

私には、彼がかなりのトラウマを抱えているように思えた。経歴をじっくり調べると、神童と呼ばれる人たちにありがちな話だった。


          *


4歳からバイオリンを始めて、寝る時間よりバイオリンを練習する時間のほうが長かったという。

アマチュアのバイオリニストだった父親はデイヴィッドの才能を認め、できるまで夜中の1時2時までも弾かせた。学校はもちろんホーム・スクーリングで、兄妹はいたが、友達はいなかった。なにしろ、練習、コンサート、ツアーの毎日である。

16歳で普通の高校に戻ったが、そこでも孤立した。その頃、初めて自分には自由がないと気がつく。家ではクラシック一辺倒。初めてロックを聞き、初めて買ったCDがクイーンの「オペラ座の夜」。

これだけ弾けば体も故障しようというもの。腱鞘炎に腕や肩、背中の痛みに襲われる。

ところが、両親に訴えても相手にしてくれない。母親はバレリーナだったので、多少の痛みは耐えるべきものと考えて、息子はただ甘えているとつっぱねた。デイヴィッド少年はしかたなく内緒でお医者に診てもらったほどである。

その後、有名な指揮者やオーケストラと公演を重ね、ロンドンの王立音楽大学に進むも、わずか1学期で退学。この辺の事情はわからないが、本人はすぐに立ち去りたく、大学側もすぐに彼に出て行ってほしかったと書いてあった。

そして、21歳のときにNight of the Proms(ポップスとクラシックのコンサート)に招待され、クロスオーバーに目覚める。

その頃には、自分のそれまでの人生がかなり異常だったことを悟り、両親から離れようとする。

目指したのはニューヨーク。内緒でジュリアードの入学試験を受けて合格(彼を不合格にしたらジュリアードの権威が落ちようというものだ)。そして、両親にジュリアードに行かせてくれと頼む。

ところが、両親は大反対。学費も生活費も一切出さない。そうすれば、息子がしっぽを巻いてドイツに帰ってくる、これまでと同じく正統クラシックのバイオリニストとしてやっていくだろう。


           *


しかし、デイヴィッドの決心は固かった。

それまで両親やマネージャーがすべて面倒を見てくれていたので、銀行に行ったことすらなかったという。英語はできても、ニューヨークの暮らしは楽ではなかったようだ。

こういうときにルックスは役に立つ。ヴォーグ誌やアルマーニのモデルをして生活費を稼いだ。

やっぱりボストンの二人とは違うなと思ったが、地下鉄で演奏したり、レストランのバスボーイ(ウェイターの補助)をしたりした時期もあったらしい。それではバイオリンを練習する時間がなくなるので、割のいいモデルのバイトに切り替えた。

そうして、ニューヨーク生活を満喫した。失われた子ども時代を取り返すように、相当遊んだらしい。

ジュリアードではイツァーク・パールマンの最初の生徒であり、音楽理論なども勉強した。卒業の際には、作曲賞も受賞している。

卒業式の写真には、当時ニューヨークに留学していたお兄さんと一緒に写っている。両親は最後まで許さなかったということか。まったくドイツ人の頑固さには恐れ入る。


           *


さて、ジュリアードの卒業証書を手に、デイヴィッドは何をしたか。

ロックとクラシックのクロスオーバーCDを作りたいと、クラシックで契約していたレコーディング会社に持ちかけた。ところが、社長は即却下する。「5枚しか売れないよ」と言ったそうだ。

しかたなく別の会社に持ち込んだところ、大成功。

断ったほうの社長がインタビューで「クラシックの世界はほんとうに保守的なんです。クロスオーバーなんかして、デイヴィッドの評判を落としたくなかったし、彼がどれだけ苦労するか目に見えていましたから、やめておけと言ったんです」と弁解していた。

彼の両親も今では応援しているが、和解するまでに長い時間がかかったという。

音楽の英才教育について、デイヴィッドは語る。

「最近、とくにアジア人のほんの小さい子どもたちが難曲をこなしている。それはすばらしいと思う。でも、本当にそんなに小さいときからやらせる必要があるのだろうか。彼らがどれだけ練習しているか、どれだけバイオリン以外のことを犠牲にしているか、ぼくにはよくわかる。ぼくも厳しい練習のおかげで今の自分があるので、それは感謝しているが、いまの小さい子たちを見ると、そこまでやらせなくていいんじゃないかと思う。」

心の傷は深い。


            *


デイヴィッドみたいな男は、女がほっておかない。

世界各地にガールフレンドが8人いるとか、いないとか。ともかく付き合っても3ヶ月しか続かないのだ。いつも違う女と写真に納まっている。

リハーサル、レコーディング、コンサート、ツアー。自分の家はどこかと聞かれて、「飛行機」と答える人である。それに、いまでも最低1日4時間はバイオリンを練習する。バイオリンと結婚しているようなものだ。

「こういう生活についてきてくれる女の子はいない。ぼくのせいじゃない」とインタビューで語っている。

「あなたはバイオリンと寝ているんですか」と聞かれて、「いっしょに寝るなら、もっとほかにいいものがあるでしょ」とちゃかしていたが、本当はバイオリンと寝たいんじゃないかと思った。

それはともかく。

ドイツのレコード会社社長の言ったとおり、風当たりは強い。

ロックしか聞かない若い人たちにクラシックを聞いてほしいという彼に、インタビューアーが皮肉る。

「つまり、あなたが上半身裸で演奏するってことですね。」

「そういうのは、ごく初期にやっただけです。」

「でも、観客はあなたのルックスに興味があるんでしょう。あなたのコンサートに集まる女性たちがこぞって純粋なクラシックのCDを買って、シューベルトのコンサートに行くと思いますか。」

あるいは、

「早弾き競争なんかして、バイオリニストとして信用を失くしたんじゃないですか。」

「あれは5歳か7歳の子供向け番組に出演したときのことです。彼らにバイオリンを紹介しようという、番組のプロデューサーのアイディアですよ。」

「じゃあ、あなたがターゲットにしている聴衆は5歳や7歳レベルなんですね。」

YouTubeやアマゾンのコメントでも、「せっかくのストラディバリウスなのに、音が汚い」とか「ベートーベンは彼が作曲した時点で完璧だったのに、へたなアレンジなんかするな」とか「xx(音楽用語)が正確じゃない」とか、「バイオリンを弾くときのわざとらしい表情が嫌い」「こいつは本物のバイオリニストじゃない」とか、まあ蔑むこと、貶めること。

デイヴィッドは、しなくていい苦労をしている。しかし、当人にはこれが必要なんだろう。

(まだ続く)



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