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雪中行軍:或る主婦の手記

2012.01.22 (日)


今年は雪が少なくて助かる。

今日は初めて本格的に降り、空手もテニスもお休み。

と言いたいところだが、長男が空手に電話したら来ている人がいて、夕方のイベントも決行だそうだ。テニスクラブのウェブサイトではとりあえず午前中のクラスだけキャンセル。その後、午後も一部キャンセルになった。

積雪予報は6インチ(15センチ)。このへんは少し高いところにあるので、プラス1インチ。

注意報レベルだから、四輪駆動なら走れるのかもしれない。でも、うちは「お母さんが運転できないから」という理由で休む。ふつうのミニバンとセダンしかないし、仮に4WDでも他の車に突っ込まれたら終わりだ。

こういう日はどこにも出かけないで、ゴロゴロするにかぎる。私はほどんど毎日がそうなので、外の天気がどうだろうと関係ないが、停電さえしなければ何も困らない。

去年の10月末、ハロウィーンの前日に季節はずれのNor'easter(アメリカ北東部の広範囲にわたって起きる大雪・大雨・暴風などストームの総称)がやってきた。

天気予報では、まだ落葉していない木に湿った雪が積もると折れやすいと繰り返したが、私はあまり心配していなかった。20年以上のアメリカ北東部生活で、 ブリザードは何度も経験した。それより、大雪でTrick-or Treatがキャンセルになりそうだとほくそ笑んだ。キャンディを買い込んだのはもったいなかったと思っただけだった。


         *


ふだんは長男の空手は朝9時半から、次男のテニスは1時から。

テニスクラブは20分弱かかるし、曲がりくねった坂道もある。降雪は午後から本格的になると聞いて、早々に行かないことに決めた(驚くべきことに、1時のクラスはあったらしい)。

長男のクラスはその日たまたま特別な練習で、開始が午後1時半。終了は3時の予定だった。こちらは車で8分。スーパーの近くで、慣れた道だ。

出かける直前まで迷った。長男が電話したら、練習はあるとのことだった。なにしろ1時過ぎにちらほらし始めたばかりで、地面には何も積もっていなかった。

黒帯テストを控えて、できれば行きたいという長男を新しいほうのセダンに乗せた。ガレージを出たら、いよいよ降り始めた。

そこで、「あ、降ってる。やーめた」とすればよかったのだが、特別教室は有料だったし、すでに1回黒帯の試験に落ちた長男には必要な練習だったので、「3時までに終わればなんとかなるだろう」と出かけた。

のろのろ運転で、空手教室の駐車場に停めた。大雪の中を二往復するより中で待とうと思い、車のドアを開けて驚いた。すでに足首までの積雪だった。しかし、 引き返すには遅い。3時から本格的になるんだから、なぜかこれ以上はしばらく積もらないだろうと考えた(この時点で、私の判断力は鈍っており、目の前の現実を見ていなかった。これは遭難者の典型的な過ちではなかろうか)。

練習は3時になっても終わらない。10人以上が来ていた。私はそのあいだ、なんども窓の外を見に行き、車の形がわからないくらい、雪が積もってきて暗澹としたが、除雪さえしてあれば大丈夫だろうとまだ高をくくっていた。


          *


外を見ていた私をよそのお母さんが呼びに来た。

「長男君、具合が悪いみたいですよ。」

その数日前から、長男はおなかのあたりが痛いと言っていた。前の練習で痛めたのだ。悪いことは重なる。

しかし、私は長男よりも雪が気になった。空手では少しの怪我はつきものだ。

とにかく早く終わってくれとイライラしていたら、停電した。もう練習どころではない。急いで車に戻ったが、フロントガラスも何もかも15センチくらいの雪に覆われていて、すぐには運転できない。車の周りにも雪は降り積もり、 脱出できるかどうかもわからない。

怪我をした長男には頼れないので、私だけが必死で雪をどかした。エンジンをかけたが、雪の重みでワイパーが動かない。また外に出て、雪をどかす。どかす一方から積もる。夫にこれから帰ると電話したかったが、誰もでない。つまり、うちも停電したのだ(夫も次男も、昔ながらのコードつき電話につけかえるのを忘れる)。

なんとか駐車場を出た。そして、幹線道路に入ると、時速5マイル程度で進んでいた。他に走っている車がほとんどいないだけラッキーだと思いつつ、しばらくいくと、スピンした車が散らばっていた。

そういう私もすべりつつ進む。ギアは1。

最初の信号は下り坂にある。二車線をさえぎって真横に止まっている車を避けながら、のろのろ運転でどうにか左折。障害物競走か。過呼吸になる。

除雪作業が追いつかないらしく。前の車が残した車輪の跡をたどる。塩も砂も撒いてない。ツルツルにすべる。ハンドルが取られるなんていうもんじゃない。私は汗だくになった。車が何台も溝につっこんでいた。ふだんは気にならないカーブがとてつもなく難しい。

あちこちに木が倒れていた。

私は甘く見ていた自分に腹が立ち、レッスン代を惜しんだケチな自分を呪った。

これは死ぬかもしれないと思った。私はともかく、長男は若すぎる。とにかく生還するしかないと決意する(今思うと大げさだが、それくらい切羽詰っていたのである)。

幸い長男は運転ができないので、どれくらい恐ろしい状況かわかっていなかったらしい。のほほんとしていた。


         *


あと1回右折すれば、うちの住宅街へ入るというところで、1台の車が立ち往生していた。前方には、道路のど真ん中に電線が垂れ下がり、雪の上で火炎が立ちのぼっていた。

前の車から男の人が降りてこちらへ歩いてきたので、窓を開けた。

「ここを右に入れば、向こうへ出られますかね」と、身なりのよさそうな男性。

「ここは行き止まりです。サブディヴィジョンの入り口で、ここしか出入り口はないんです。」

「いやー、困ったなあ」となんだか余裕のある紳士。

「あのー、私はここで右折しなくちゃいけないんですけど。ちょっと動いてくれませんか」と必死な私。

男性は車に戻ると、Uターンしないで、火を避けて直進した。メルセデスだったか、アウディだったか。さすがヨーロッパ車だわと妙に感心した。

うちまであと0.5マイル(800メートル)。やっと一息ついた。

しかし、ここはさらに積雪がひどかった。除雪のあとがまったく無い。車のわだちもわずかに見えるだけ。

しかも、この先には坂道が2つある。夫が昔リムジンでブリザードの中を帰宅したとき、運転手が往生したくらいで、特に2番目の坂道は厳しいと言っていた。 何度も試みてようやく上りきったのだそうだ。

だから私も2番目の坂道は無理かもしれないと覚悟して、最初の坂道に挑んだ。


         *


積雪はあるし、すべるし、ゆっくり行きたいが、パワーがないと上れない。

思い切ってアクセルを踏んだ。しばらく行くと、雪に阻まれて、タイヤが回転するだけになった。少し下がってもう何度もやり直したが、どうしても上れない。ゆるい方の1つ目の坂で挫折とは。

800メートルといえど、この雪の中を歩くのは厳しい。私はフラットシューズだし、長男は裸足にスニーカー。私はジャケットに手袋だったが、長男はジャージーだけ。これでは遭難してしまう。

だめもとで自宅に電話したが、呼び出し音がなるばかりで誰もでない。私は怒り狂った。

「車を捨てて歩くしかないわ」と長男に伝えた。お腹を怪我していたが、歩いてもらうしかない。幸い、夫のブーツやジャケット、手袋があった。私はバッグも 荷物になると思って、財布と携帯だけをポケットに入れた。

運動不足の私が、何が楽しくて雪中行軍をしているのか。

近所の家では、木が小枝のようにポキポキ折れていて、折れなくても葉っぱの上に降り積もった雪でたゆんでいた。ニュースで警告していたとおりの図だった。

途中で立ち止まり、もう一度家に電話をした。ガレージのドアを開けてもらうためだ。停電中はリモコンが使えない。電気がなければ、うちはただの箱である。

誰も出ない。

再び歩き始めたところで、バリバリッという音がして、目の前に大きな木が横倒しになった。ほんの5メートル先である。音がしてから倒れるのは一瞬だった。

遠回りをして、最後の坂道を登る。右にやっとうちの前の通りが見えた。体は冷え切っているのに汗だくで、足は雪に取られるし、しかも雪はまだ降り続く。

家がかすんで見えてきても、なかなかたどり着けない。横なぐりの吹雪で、足元しか見えない。これまで読んだ遭難者の物語が頭に浮かんだ(私は出かけるのがきらいなのに、極地や雪山の遭難モノが大好きなのである)。


          *


やっとドライブウェイに入った。長男は少し遅れを取っているが、私は進む。

お隣がうちとの境目に植えた木が4本とも地上1メートルくらいで折れていて、 うちのドライブウェイをふさいでいた。大回りしてまたぐ。うちのクラブアップルも、枝が地面に着くくらいしなっていた。なんとかしなければ。

ひざまである雪を掻き分け、玄関にたどり着く。呼び鈴を鳴らすと、次男がドアを開けた。

「どうして電話をつけかえないのよ! 停電のときはそうしてっていつも言ってる じゃない! 坂道のずっと下で車捨てて、歩いてきたのよ。目の前で木が倒れるし、死ぬかと思った」と私はまくしたてた。

「長男くんは?」とのんびりたずねる次男。

「いま来るわよ。明日、歩いて車を取りに行かなくちゃ。」

夫の車なので、怒るかと思ったが、「あの坂は無理だなあ」と気にしていない風だった。それより、夫が車においていた冬装備が役に立ったのを知って、ご満悦になった。私が「あれがあって、ラッキーだったわー」とほめたら、「ラッキー だって?! ぼくはこういうときに備えて、ちゃんと考えていたんだよ。いつ車を捨てて、歩かなくちゃいけないかわからんからね。」(この自慢はその後1週間は続いた。)

夫はバッファローで育った。私とは雪のキャリアが違う。「だったら、私が出かけるの、止めてくれたらよかったじゃないの!」と恨んだ。

寒いのに汗だくだが、停電でお湯も出ない。クラブアップルの木を救うべく、枝から雪を払い落とした。いつのまにか大きく育って、半分くらいしか届かない。 しかし、ここでがんばらないと、お隣の木みたいに折れてしまう。夫も次男も手伝って、どうにか雪をどけた(ただし、翌朝までにはさらに積もって、もっと傾いていた。幸い、少し細い枝が折れただけで、木は健在であ る)。

私はその晩、道路の端っこにおいてきた車の上に木が倒れてくるんじゃないかと気が気ではなかった。

非常用ラジオをつけると、どこも大変な被害だった。こんなに早い時期の大雪で、除雪担当者もまったく不意打ちをくらったらしい。どこもかしこも停電。

1週間ほど停電した夏のハリケーンのときより復旧に時間がかかるという話だった(実際は、うちのあたりは24時間で電気が戻った。ありがたくて、電気会社にお礼の電話をしたくなった)。


            *


翌朝、明るくなったところで、まず私だけ車まで歩くことにした。

シャベルは重いので、ほうきだけ持った。そして、携帯で状況を報告し、必要なら夫と次男が救援に来るという手はずである。

どこの庭も倒木だらけで、雪の重みで緑の葉がついたままの枝が垂れ下がるシュールな世界。ときおり、木の倒れる音がどーんとこだまする。まだ10月なので、秋の日差しで気温はどんどん上がる。雪景色を見慣れた私にも初めての異様な光景だった。

道路は除雪されていた。坂道を下って、雪をかぶった車にたどり着いた。木でつぶされていなくてほっとした。除雪車に追突されてもいなかった。

エンジンはかかるが、車の前後の雪かきをしないと出られない。家に電話をして、待った。ほうきで窓ガラスから雪をどかす。もう雪は止んだし、それほど寒くない。

歩いても5分、車なら1分もかからない距離なのに、いつまでたっても夫も次男も来ない。また電話したが、「ダディがジャケットがなんとかって言ってる」と要領を得ない返事だった。「もう、あんただけシャベルを持って歩いて来て。」 夫を待っていたら日が暮れる。

ほうきで雪をどかしていると、2軒先の家で雪かきをしていたおじさんが呼んだ。

「大丈夫ですかー。手伝いましょうかー。」

「大丈夫ですー。夫がもうすぐ来ますからー。でも、ありがとうー!」と私。

しかし、なかなか現れないのを見て、おじさんはシャベルを持ってやってきた。

「お宅のドライブウェイの雪かきもあるのに、すみません」と恐縮すると、「ノープロブレム!そのほうきじゃ、いつまでたっても終わりませんよ」と、 さっそく前輪後輪の周りを雪かきしてくれた。

雪からの脱出方法をよく知らない私に、「ちょっと前後にゆすってみて。ハンドルを道路のほうに向けて」とアドバイスもしてくれた。一発で出られた。

車から出て、お礼を言うと、"Anytime!"と握手して笑った。不動産税は高いが、親切な人の多いご近所である。

私が車を運転して家に向かおうとしたら、夫と次男がミニバンでやってきた。何を勘違いしているんだか、二人とも着膨れている。

「いま、あのおじさんが手伝ってくれたのよ。いったい何してたの? すれちがうとき、ちゃんとお礼を言って。私はもう帰るから。」

無事に車をガレージに入れた。前日は本当についていた。あのストームの中で事故に巻き込まれず、破損もせず、雪中行軍はきびしかったが、一晩外に置いてあった車も無事だった。


          *


アメリカに来て、4年目のある日。

まだNJにいたころ、仕事から帰る途中で大雪になった。ハイウェイはのろのろ運転。それでも、どうにか家の近くまで来たものの、道路は除雪されていなかった。いよいよ車を捨てて歩こうと思ったら、反対側から除雪車がやってきて、反対車線の雪をどかしていった。除雪車に後光がさして見えた。

私は逆走して、少しでも家に近づこうと試みた。そのうち、除雪範囲が増えて、すべりながらも家にたどり着いた。

免許を取得して3年目。あれほど怖かったことはない。その後、凍った道路でスピンしたことも何度かあり、雪より氷のほうが怖いと思うようになった。

しかし、今回の経験はそれ以上。やはり雪も怖い。思い出して書くだけでぞっとしてきた。私にしては細かいことまでよく覚えていたのは、それだけ印象深かったわけだ。

今日の雪はブリザードには程遠く、すでに小ぶりになったが、あのNor'easterの記憶も新しい私は「今日はどこにも行かないわよ」と申し伝えてある。


<今日の英語>  

Please don't go ballistic on this.
怒鳴らないでくれ。


取引先のことで激怒したらしいG氏を夫がなだめたときの一言。ballistic は弾道。火薬が爆発するようにキレること。



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 |  生活  |  コメント(3)

Comment

東京も雪

お久しぶりです。

先週末は東京も初雪でしたが、それほど寒くなく、すぐに溶けてしまいました。

雪中行軍、お疲れ様でした。^^
りゅうこ |  2012.01.22(日) 08:49 | URL |  【編集】

ドラマチック!

なんて言ってる場合じゃないんですよね。
分かります、私、北海道出身ですから。

でもなんか子供のころを思い出してホンワカ
してしまいました(;;)

常夏のバンコクより(へへへ)
次回も楽しみにしてます!
太吉 |  2012.01.22(日) 14:52 | URL |  【編集】

すごく面白かったです。もちろんkometto3さんの苦労する様が面白かったわけではありません。読み物としてとても面白かったです。
kometto3さんの文章は良いですね。きちんと組み立ててあるし、言葉の選び方も一文の長さも、句読点の使い方も文法も、すべてに無駄がなくてしっくりときます。
面白い読み物をありがとうございました。
もり |  2012.01.23(月) 17:06 | URL |  【編集】

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