青い爆発
2011.08.11 (木)
フィラデルフィアに出かける前日、寝違えたのか、左の首から肩にかけて筋肉痛があった。
半日経っても治らないので、温シップをしようと思った。いつもはタオルを濡らして電子レンジで暖めるのだが、長男が使ったアイスパックが台所のカウンターに出しっぱなしになっていた。
これを買ったのはほんの3ヶ月前。
それまで、うちには古いアイスパックしかなかった。ドラッグストアで「アイスでもホットでも使えます」という触れ込みの製品を見つけ、ベルクロ(日本ではマジックテープ?)つきの簡易ホルダーもついていたので、ちょっと高めだったが買ってみた。
結局、冷やす方しか使わなかったが、パックに印刷してある使用方法を読むと、電子レンジで20秒暖め、温度が均一になるようにほぐせばいいと書いてあった。
なぜかペーパータオルに載せろとある。初めてなので、指示通りにする。
やってみたら、なるほど暖かい。でも20秒ではホットにはならない。10秒追加してみたら、ちょうどよくなった。
暖かいパックを肩に当て、冷めたらまた電子レンジでチン。
これは簡単。タオルを出したり、濡らしたり、絞ったりする手間がいらない。ものぐさな私のための製品である。
首と肩の痛みにはそれほど効果はなかったが、気持ちがいいのでそれでよしとした。
*
フィラデルフィアから戻っても、まだなんとなく肩のあたりが重かった。
ニューヨークで無駄歩きをしてクタクタになっていた私は、気休めにホットパックをしようと思った。
ペーパータオルを出す元気もなく、そのままガラスの回転トレイの上に載せた。
誰もいない真夜中の台所で、ぼんやりした頭で考える。
パッケージには20秒と書いてあったが、それでは足らなかったはず。10秒追加した記憶がある。真ん中を取って25秒でいいか。
そして、2、3、0とスタートボタンを押した。
それから、カウンターの方を向き、今日届いた郵便を開け、回らぬ頭で読み始めた。
ボンッ!
と後方から大きい破裂音がした。
ぎょっとして振り向くと、まだ回っている電子レンジの明るい内部に、さっき入れたアイス&ホットパックが爆発し、青い中身が飛び散っているのが見えた。
大慌てで、ストップボタンを押す。
恐る恐るドアを開けてみると、パックには大きな穴が空き、ドアの内側はジャクソン・ポラックの絵。丸い回転トレイの端っこには、半分からっぽになったパックがもたれていて、トレイの反対側に不気味な形の青い塊が転がっていた。
いったいなんでこんなことに?
そして、はたと気がついた。25秒のつもりで、私は2分30秒も加熱してしまったのだ。「袋が膨らみ始めたらすぐ止めるように」という注意書きを思い出した。
一挙に脱力する。しかし、このままにしておくわけにいかない。
まだしも青でよかった。これが赤だったら、殺人現場である。
規定の5倍も長く加熱された物体がどれくらい熱いのかわからない。ビニール袋やスプーンでそろそろとかき集める。
だんだん冷めてきたので、ペーパータオルで電子レンジの天井をぬぐうと、やっぱり青いのが飛び散っていた。
あの青い物体が何でできているのかわからない。毒だったら困ると思って、何度も拭き、回転トレイをはずして洗った。
爆発のショックで目が覚めたが、頭も体も疲れていて、もう自分でも何をしているんだかわからない。
こんなに疲れている夜中に、なぜ私は電子レンジの掃除をしているのであろうか。
*
翌朝、子どもたちにこの話をしたら、ワッハッハ~!と大喜びになった。
彼らは、「私は正しい」と顔に書いてある(らしい)私がこういう失敗をするのが大好きなのだ。
特に、実験とか爆発とか武器とか物騒なことに興味のある次男は、根掘り葉掘り聞く。
「燃えた? 溶けた? ドロドロ? 電子レンジの中、ブルーになった? どこにあるの?」
そんなものは全部ゴミ箱に捨てたと言うと、がっくりしていた。あの残骸をどうするつもりよ。
「ジャガイモの爆発とどっちがすごい?」と次男。
私はいろんなものを電子レンジやオーブンで爆発または燃焼させているのである。
アメリカに来たばかりのころ、にんじんを電子レンジで加熱しようとして、炭を作ったこともある(次男はぼくもやりたいと言い張る)。
まだ新しいアイスパックはこうして消えた。
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今、同じように
ホットパックをつくろうと思ってたところでして
気を付けよう、爆発