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私への負い目

2011.03.09 (水)



夕食のあとでパンプキン・パイを作った。

切ろうと思ったが、熱すぎる。そのまま台所のカウンターに置いておいた。

朝、例によって猫に早くから起こされ、朦朧として階下へ行くと、一切れ分が消えていた。夫である。

夫は睡眠パターンが乱れているので、食事時間もずれる。定期的にカウンターに食べ散らかしの跡が見え、私はそこから真夜中にターキーとチーズのサンドイッチを作ったなとか、シリアルを食べたなとか、推測する。

夫が大好物のパイに手を出さないわけがない。私は夫用に作ったのだ。

私も一切れを朝食の代わりにした。それからラップトップを持ってきて、NPRニュースをつけ、新聞記事を読み始めた。

すると、夫も下りてきて、「昨日の夜遅く、食べたよ。今回のもよくできてるね」と言いつつ、また大きな一切れを切った。夫はパイが好きなので、私が今ひとつの出来だと思っても、うまいと言う。パイであれば、なんでもいいのだ。もともと私ほど食べ物にはうるさくない。

「そうねえ、今回はまあ上手にできたほうね。あなたには pick-me-up(元気付け)が必要な気がしたのよ。私も食べたいなと思ったし」と私。

ニュースから目を離さず、適当に答える。

夫はここ数日ずっとG氏に頼まれた資料作りに苦戦していた。いまにも倒れそうに芝居がかった様子で自室から出てくるのだ。夫といい、子どもたちといい、どうしてうちの男どもはああやって私の同情を買おうとするのだろう。彼らには黙って耐えるという美学はない。

「ありがとう。確かに元気になるね。本当にうまいよ」と夫。

そして、おもむろに言った。

「きみはあのまま東京にいたほうがよかったんじゃないかなあ。いつも散らかしっぱなしのぼくや子どもたちの世話で苦労しなくてすんだと思うよ。」

また始まった。

夫は1年に1回、もしかしたら半年に1回くらいはこうつぶやくのである。

「そんなことないでしょ。第一、私はたいしたことしてないじゃない。なんでも手抜きだし。」 

「ぼくと一緒にならなければ、あのまま東京でお姉さんと楽しく食事に行ったり、いくらでもおしゃべりしたり、読みたいだけ本を読んだりできただろうなあと思うよ。」

「そうかしら。」 今さらどうしろと言うのだ。

このまま夫の相手をすると、「ぼくが死んだら、きっと日本に帰りたくなるよ」か「お姉さんが引退したら、アメリカに呼び寄せたらどうか」という話になる。どちらも簡単なことではない。私は夫の死後もアメリカに残るつもりでいるし、姉には姉の生活がある。

だから、この話はここで打ち切りというメッセージを夫に送るために、NYタイムズに没頭するふりをした。

夫はパイを食べ終え、「もう一眠りする」と言って2階へ上がっていった。


              *


私は自分の意志で結婚し、アメリカに移住したのだが、なぜか夫はずっと責任を感じているらしい。

アメリカに来て不幸になったのではないかと定期的に私に問いかけるのだ。

おもしろいことに、夫婦仲が最悪のときにはそんな話はしなかった。平時にしみじみとした雰囲気で持ち出す。

私が特に落ち込んでいるとか、夫のガラクタにかんしゃくを起こすとか、子どものことで口論するとか、そういうときこそ「人生を誤った」という後悔の念に駆られるはずなのに、まったく夫の思考回路はわからない。

夫には私が幸せそうに見えないらしい。

親類縁者は遠く、日本人との付き合いもほとんどなく、友だちと出かけることもなく、買い物や食事に出かけることもほとんどせず、家で夫と子どもと猫の世話をするだけの生活。夫との会話は英語で、夫は結婚してから20年経っても日本語を覚える気配はゼロで、貯金はあるが大金持ちでもない。夫は躁鬱病で、片付けと事務処理が苦手で、ガラクタが捨てられない。子どもたちは健康だが、特別に優秀でもなく、ゲームやパソコンに熱中して私をいらだたせる。

しかし、私はこれでいいのである。

人生こんなもんだろうと思っている。

仮に不満があっても、夫のせいだとは思わない。私が選んだのだから。


                *


夫が私に負い目を感じるのはなぜだろう。

私はこの件で夫を責めたことはない。あなたのために日本を捨てて来てあげたのよと思ったこともない。

私は家に1人でいるのが一番好きなのだ。これだけ長年いっしょに暮らしても、夫にはわからないのだろうか。

確かに食べ物や日本語の本については残念だが、何事にも慣れるもの。自分でおいしいものも作れるようになったし、インターネットのおかげで日本語が毎日読めるようになった。

夫がどれくらい真剣に考えているのかわからない。

仮に、「そうね、やっぱりアメリカに来たのは間違いだったわ」と言ったらどうするのだろう。「じゃあ帰るといいよ。これが旅費。今までありがとう」なんて簡単には行かない。

もしかして、夫は私が「アメリカに来たことを後悔していない」と答えるのを知っているのかもしれない。ちゃんとわかっていて、それでも確かめたいだけかもしれない。

でも、私はもう22年もアメリカに住んでいるのである。

アメリカの生活にすっかり馴染んでしまった。英語は完璧ではないが、夫ができない事務処理やら交渉事やら、ほとんど何でも自分でできる(これについても夫はときどき感嘆して、「ほんとうにすごいよ。ぼくが日本で同じことをやれと言われても、できない」などと言う。まあ日本語ができなければ無理でしょう)。

悩み事もあったが、お金に困ったことは一度もない。だいたいお気楽にやりたいようにやってきた。日本にいたら、おそらくそうはいかなかった。

私は自分の選択が正しかったと思っている。

夫がこの話を持ち出すたびに、そう説明するのだが、夫はその場では納得しても、また半年もすると同じことを聞く。そして、私は「あー、はいはい。この件ですね」と、やはり同じ答えをあげる。



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 |   |  コメント(5)

Comment

きっと

ご主人は、自分が幸せだなぁと感じた時に「でもkometto3を幸せにできていないかもしれない」と感じてつぶやいてしまうのでしょうね。
でも男の人のつぶやきは、こっちが思っている程深刻に考えて発しているわけではないと思うので、適当に相槌を打つのが一番ですね。
シロケン |  2011.03.09(水) 23:51 | URL |  【編集】

男のDNA?

いつも楽しく読ませて頂いてます。
初コメント。。
うちんとこも、よく、「幸せか?」と聞きますね。
男って、プレゼントして喜ぶ姿、相手の幸せそうな姿、それが、自分が幸せにしてやってんだという、自身の甲斐性であり自信に繋がるんではと??

だから、相手の「しあわせよ」という言葉に安心したい。。そう思います。

一番いいのは、「しあわせよ~♪」って嬉しそうにするのがいいのでしょうが、わたしくも、上手に甘えることが出来ません。
わかってても無愛想に、、、「ぅん」っとボソっと答えるだけ。
ひぃ★ |  2011.03.10(木) 08:15 | URL |  【編集】

そうですね

誰と結婚したとしても、生きていくって概ねこんなものだと思います。 そしてたぶん、死ぬ時は「まぁまぁだったわね・・・。」って言うんじゃないのかな・・・。

幸せってことなのかもしれない・。
りゅうこ |  2011.03.10(木) 08:30 | URL |  【編集】

初めてコメントします

 初めまして。昨夜夫婦喧嘩をしたあと、一人沈んでいるときにここを見つけ、いろいろ読ませていただきました。まだ全部読んだわけではありませんが・・・とても興味深く読ませていただきました。
 家も仮面夫婦です。国際結婚ではないのですが、どうしても魂がいつも離れてしまっている感じがして・・・。鬱まではありませんが、時々もう死んでもいいかなと思うことも・・。本帰国してもう一度仕事を持って子どもたちが成人したら、自由に楽しもうと、それが一番の心の支えかもしれません。
 時々こちら覗かせてください。
 
リリー |  2011.05.03(火) 12:33 | URL |  【編集】

はじめまして

旦那さんはあなたを喜ばせたいんだと思いますよ。マグカップに取ってが付いて扱いやすいように女性もこのツボ押せばいつでもご機嫌取れるってのがあればと常々思いますから。
それがプレゼントだったり、美味しい物だったりでしょうが、男ってのは夜の頑張りで『まぁ!素敵!惚れ直しちゃったわ(ハート)』てな幻想を抱き易いんです。
他に効果的なのが旦那さんに限らず息子さんたちもですが帰宅してきたときニコっと意識して笑顔を向けるとかなり嬉しいもんですオススメ!
namsan01 |  2011.07.12(火) 03:22 | URL |  【編集】

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