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歩けない話せないマイケル

2010.10.18 (月)



フィジカル・セラピーには5回通った。あと13回残っている。

効果のほどはよくわからない。セラピーのあとは筋肉が痛いし、ふだんでもちょっとひじに負担がかかると、まだピリッと来る。

セラピストの指示で、いろんな器具を使って右腕を鍛える。ゴム布を引っ張ったり、ゴムボールを握ったり、握力検査の道具みたいなのを指で押したりという単純な動作だ。それでも、時には顔をしかめるくらい、ひじに響く。

ためしに左手でやってみたら、びっくりするほどスイスイできた。たとえば、右腕が60歳だとすると、左は25歳くらいの感じ。やはり右はかなりのダメージを受けているようだ。

整形外科医に言われたとおり、朝晩のストレッチもやっている。

車のシフトギアを前後に動かすのも難しいときがあったので、その頃に比べたらよくなっているはずなのに、痛みや不快感が消えない。

最初に異常に気がついたのは6月だった。すぐに専門医に見てもらうべきだったと悔やむが、もう遅い。

長男に「信じないと直らないよ。」と言われてから、セラピー中は「これは効果がある。これできっと直る。」と自分に暗示をかけるようにしている。

そういえば、ある美容の専門家は、化粧水やクリームをつけるときに「皮膚の奥までちゃんと届けてよ。」とか「これは高かったから絶対に効き目があるのよ。」とか肌に話しかけながらやるそうだ。だいぶ違うらしい。

私の場合、心のどこかでセラピーと名のつくものを疑っているので、あまり期待できない。


          *


セラピーの曜日や時間はいろいろだったが、おなじみの顔が増えてきた。

その中でも毎回必ず会うのが、20代半ばくらいの白人青年マイケル。長身でがっしりしている。

彼にはいつも同じセラピストがつきっきりで相手をしている。まだ若くて、とても明るい白人女性ジャッキー。アメリカ人女性にしては小柄なので、マイケルの横に並ぶと頼りなく見える。

初めてマイケルの声を聞いたときは、変わった笑い方をする人だなと思った。姿は見えなかった。そして、セラピストの話しかけに答える彼の声を聞いて、やっと発声に障害があるのだとわかった。顔にも麻痺があった。

その後、何回も彼のセラピーを見かけた。

バスケットボールを手で背中のほうに回して、お腹へ戻したり、手を伸ばして何かをつかんだり、椅子から立ち上がったり、どれも危なっかしかった。バランスが保てず、全身がグラグラする。

セラピストは冗談を言いながら励まし、根気よくマッサージをした。

マイケルは話しかけられることは全部理解でき、周囲で起きていることもわかっているようだ。ただ、うまく発声できないので、「うあ~うあ~。」としか私には聞こえない。

セラピストも聞き取れないらしく、何度も言わせたり、スペリングを言わせてみたり(アルファベットでも私にはさっぱりわからない)、「シャツ? タオル?」などとあてずっぽうをしたりしていた。マイケルの顔に疲れが浮かぶ。

一生懸命繰り返す彼に対して、理解できないこちらのほうが申し訳なくなる。

 
         *


マイケルはセラピーに来ている人たちの中で一番重症だ。

歩くというより、まず片足を持ち上げ、前方に下ろし、体を前に傾け、次は後ろに残った足を持ち上げという具合で、ごくゆっくりやってもよろけるので、ジャッキーとアシスタントが両側に立つ。

出入り口のドアから出て、しばらく戻らなかったときがあった。廊下と階段で歩く練習をしていたらしい。私はちょうど腕にアイスパックをしながら、入り口近くのの椅子に座っていた。

2人に付き添われて椅子の前に立ち、ふらつきながらゆっくり腰を下ろした彼に、「お水飲む? ストローもほしい?」とアシスタントが話しかけた。

プラスチックのコップを渡されて、そっとつかみ、むせながら飲んでいた。コップを落としそうで、真向かいに座っていた私はハラハラした。

ジャッキーが「クッキー、食べる?」と聞く。マイケルは「うあ~。」と答える。チョコレートチップ入りのクッキーを一枚、紙ナプキンと共に渡された彼は、これも慎重に持ち上げ、一口ずつやはりむせながら食べた。

彼は私には話しかけない。私も見ているだけで何もしない。見ては失礼なのだろうが、つい目が向いてしまう。

そして、たかがテニスひじでフィジカル・セラピーにきている自分を場違いに思う。マイケルみたいな人こそ、セラピーが必要で、手や足の動きがほんの少しでもよくなるように奮闘しているのだ。

テニスひじの治療で穴の開いたゴム板に指を入れて、ぎゅっとこぶしを作ったり、左右にひねったりするものがある。シンディは web と呼ぶ。

私はあれがきつくて大嫌いで、器具を渡すアシスタントに文句を言う。でも、マイケルが近くにいるときは黙ってやる。普通に歩けて話せる人間が贅沢を言うなと思う。その代わりに、心の中で「これでテニスひじが治るという根拠はあるのか?!」と悪態をつく。


          *


前回のセッションで、初めてマイケルの両親を見た。

60歳くらいだろう。お父さんの髪は白かった。服装からして、生活にいくらか余裕のありそうな人たちだった。

マイケルが一歩ずつ歩いて、小部屋に入り、椅子に座るのを見て、お母さんが「信じられない。」とつぶやいた。前はもっと不自由だったのだろう。

ふだんは廊下で若い黒人男性が待機している。マイケルが移動に使うらしい車椅子が置いてある。送り迎えだけでなく、24時間誰かがついていなければならない生活。

どういう事情で彼がこうなったのかは知らない。それまではごく普通の生活をしていたらしく、生まれつきというより、たぶん事故で脳挫傷にでもなったのではないかと思う。体格がいいので、スポーツ中の怪我が原因かもしれない。

運転の下手な私は、高速道路で事故を起こしたら終わりだなとときどき考える。植物人間や寝たきりになるくらいなら即死のほうがましだ。でも、うっかり中途半端に助かってしまったらどうしよう。

マイケルはいつも笑顔で、弱音を吐かない。彼の両親も前向きだ。

ここまで来るのに大変な思いをしたのだろうが、今はマイケルがフィジカル・セラピーで体の機能を回復することだけを目標にしているらしかった。たぶんスピーチ・セラピーもやっている。

私のセラピーは最初は1時間半だったが、このごろは1時間で終わる。しかも週3回だけ。マイケルはたぶん毎日3時間以上かけていると思う。それが彼の日課で仕事でもある。

私と違って、彼はきっと直ると信じているように見える。


<今日の英語>

Nice and easy.
無理しないで、そうっと。


がんばりすぎていたマイケルにセラピストが一言。実際には "Nice'n easy." と聞こえる。立ち上がる練習をしていたときは、"Nice'n tall." 私はペダルを早く回し過ぎていたときに、"Nice'n slow." と言われた。



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