タグ・セールへのお誘い
2010.08.23 (月)
3日前のこと。外出先から戻ると、留守電のメッセージ・ライトが点滅していた。
再生ボタンを押したら、隣のメアリだった。
彼女のドライブウェイはとても長く、隣というよりは裏といったほうが正しい。葉っぱが生い茂っている間は、メアリ宅はうちから見えない。落葉すると、木々の間から遠目に見える。それくらい離れている。
メアリの長女キャサリンは、うちの子供たちのベビーシッターだった。彼女はとっくに大学を卒業して、結婚した。キャサリンの弟2人も社会人となり、裏の大きい家にはメアリとジーンの夫婦だけになった。ラブラドル・リトリーバーが老衰で死んでからは犬の声もしない。
夏の間はジーンが芝刈りをする姿を見るが、私は家の中にいるので顔を合わせない。最後にメアリかジーンとまともに会話をしたのは、2年かもっと前かもしれない。彼らだけでなく、ご近所の誰とも私は長い間話していない。2週間に1回くらい、車で誰かとすれ違い、手を振るくらいだ。
孤立した郊外生活の典型である。
特にここは郊外というよりも田舎に近いので、家の敷地が広い。ちょっとしたタイミングの違いで、ゴミやリサイクリングの日にだって何週間もお互いに見ないのだ。道路まで出てよほど外で大きな声で話していなければ、話し声も聞えない。
私以外は派閥みたいなのがあって、それぞれに交流はあるらしい。私はそれで気楽なのだが、たまに会うとなんだか気まずい。適当な話をしてお茶を濁す。
メアリの用事がなんだかまったく予想ができなかった。何か迷惑をかけただろうか。人付き合いが苦手な私は心配になった。
*
「ハーイ、kometto3!元気? お久しぶりね。すべて順調にやってるといいんだけど。今日お電話したのは、9月の18日と19日に Block Tag Sale をやろうという計画があって、あなたもどうかと思って。まだ詳しいことは決まってなくて、こうやって電話で参加者を募ってる段階。もし興味があったら、お電話ください。待ってます。」
タグ・セールはガレージ・セール、ヤード・セールとも呼ばれる。自宅の不用品に値札(タグ)を付けて、ガレージや庭(ヤード)やドライブウェイに品物を並べて売る。毎週末、町のどこかで必ずやっている一般的な催しだ。
ブロックというのは、一軒だけでなく、同じ通りのご近所さんが共同で行う場合である。
何年か前にも、別の人が2~3人でそういう企画をしたが、私は参加しなかった。精神的にも肉体的にも、とてもそんな余裕はなかった。
私はアメリカに20年以上住みながら、ただの一度もタグ・セールをやったことがない。
3件くらい見に行ったことはあるが、おもちゃや子供服をいくつか買ったくらいで、なーんだこんなものかとガッカリした。しょせんは不用品なんだから、金儲けよりも廃棄処分が目的なのだ。値段も25セントや1ドルから、せいぜい5ドルくらい。
*
メアリのメッセージを聞きながら、相反する考えが浮かんだ。
家の中を片付けるチャンス! オークションや寄付には不適当なガラクタを一掃できるかもしれない。自分だけでタグ・セールをする才覚はないけれど、ご近所で何件か同時開催すればいろいろ教えてもらえるし、人集めもできる。
でも、夫がどこまで自分の持ち物にしがみつくか。参加すると言って、ほんの少ししか出せなかったらどうしよう。それに、メアリとも他のご近所さんとも、私はすっかり疎遠になっている。急にいっしょにタグ・セールなんかできるだろうか。
だいたいうちの近所の奥さんたちは、ほとんどが仕切り屋だ。学校でのボランティアの顔役みたいな人が揃っている。
表向きはニコニコしているのに、陰口がすごい。私は彼女たちの標的にもならないくらいの存在だけど、なんかややこしいことになったらいやだな。それに、みんなタグ・セールには慣れているだろうから、私だけヘンテコなことをしたらどうしよう。
でも、ご近所がみんな参加するのに、うちだけポツンと品物が並んでないのは、それまた気が引ける。
基本的には、どこの奥さんもいい人たちなのだ。陰でどう噂されているか知らないが、あからさまに私を差別する人はいない。
ただし、全員が白人なので唯一のアジア人である私とは微妙に壁がある。私は深入りしたくないので、むしろそのほうが助かるが、こんな共同作業はしたことがない。不安だ。
*
夫に聞いてみた。
「きみがやりたければ、やればいい。ただし、どれをセールに出すかどうか、ぼくの承認を取ってくれ。」と冗談交じりに言った。そして、台所のキャビネを開けて、一番上の段に山ほどあるもらいもののマグカップを指差した。「これなんか、どうかな。」
そうそう、そういうのを捨てたいの。ちょっと勇気が出た。
次に、子どもたちに聞いてみた。
どれくらいの人が来るかわからないが、値段をつけたり、外に運び出して陳列したり、おつりを渡したり、質問に答えたり、私1人ではとうていまかない切れない。夫は気分が乗れば、うるさいほど手も口も出すかもしれないが、まったく当てにならない。
「お母さんがタグセールをやるとしたら、あんたたち手伝ってくれる?」
「いいよ。」と素直な長男。よしよし。次男は「ぼく、できない。」 いや、あんたもやるのよ。
*
それでも、丸2日悩んだ。そして、メアリに電話をすると、ご主人が出て、ちょうど出かけたところだと言われた。タグセールに参加しますと伝言を頼んだ。
2時間ほどしてメアリから電話があり、今のところ5軒から申し出があったそうだ。
「あの、私これまでタグセールなんか一度もやったことないんですけど。」と私。
「私もそうなのよ!」と明るいメアリ。えっ、そうなの? それでブロック・タグ・セールを企画するのか。
「でも、デビーはやったことあるんですって。細かいことは決まってないけど、ローカルの無料雑誌やネットに広告を出したらどうかと思うの。1軒あたりはせいぜい2、3ドルで済むし。それから、看板を作ったりもしなくちゃね。」
そうか、いろいろ相談のために集まるんだな。うちに集まることはないだろう。引きこもり状態の私にはちょっと気が進まないが、参加表明したからには後には引けない。
メアリは、うちの子供たちが9月から2人ともハイスクールだと知って、「まあ、ほんとに?そんなに大きくなったの。早いわねえ。」と、どこの国でも言いそうなセリフを言った。
私はみんながいいと思う方法で進めてもらってかまわないこと、タグ・セールの基本をこれから勉強することをメアリに伝え、私のメールアドレスを教えましょうかと聞いた。こういうことは電話よりメールのほうがありがたい。5人も関わるなら、なおさらだ。それに、毎回どこかに集まって話し合うのも疲れる。
彼女は予想していなかったらしく、「ああ、そういうやり方もあるわね。」とペンと紙を取りに行った。そして、「じゃあ、また連絡するわね。そのうちチャットしましょう。」と電話を切った。
夏の残りをいつものようにノンベンダラリと過ごすつもりだったが、計画変更と相成った。
<今日の英語>
Don't hold your breath.
期待しないように。
先日辞任したHPのCEOの後任探しについて、元HPのエンジニアで今は大学教授となった人が「いま必要な人物は、過去3人のCEOの長所をすべて持っている人だ。そういう人を探し出すのは不可能ではないが、ここ数年の実績からして、期待しても無駄だ。」と皮肉った。
hold one's breath は、気がかりな物事の結果をかたずを飲んで(息を止めて)待つこと。
クリック募金を始めました。下記サイトにて協賛企業のリンクを各社1回クリックすると、1円ずつ募金できます。
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タグセールいいですね!売れ残ったも等はこれをきっかけで処分できるだろうし!私もアメリカ北部に住んでいますがKoemtto3のように英語が出来ないから”ご近所の方と一緒に”ってのは本当に難しいので、羨ましいです。出し物についてはご主人とバトルがあるかもしれませんが、物が減るのって家の中も気持ちもスッキリしますもんね!準備などが上手く進みますように!
タラレバ |
2010.08.23(月) 23:27 | URL |
【編集】
私も最近、古本やDVD、服などを大量に買い取ってもらいました。家の中がすっきりするし、臨時収入も入ってきて嬉しかったです^^
準備は大変だと思いますが、ぜひ頑張ってください!ご近所の方も良さそうな人ばかりで恵まれていますね♪
準備は大変だと思いますが、ぜひ頑張ってください!ご近所の方も良さそうな人ばかりで恵まれていますね♪
うさ |
2010.08.24(火) 09:16 | URL |
【編集】
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