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愛人ごっこ その68

2009.11.25 (水)


(前回その67の続き)

パヴェルがドイツに帰ってしまっても、私はそれほど落ち込まなかった。

私たちの間は1年目よりもっと近く、もっと深くなっていたし、再びニューヨークに来てくれただけでよかったではないかと自分を納得させた。

2人で過ごした一夜のあと、私たちの関係は少しばかり変わったかもしれない。私はパヴェルの存在を自分と切り離して考えられるようになり、地理的にも心理的にも距離を置けるようになっていた。

それでも、ときおり彼がとても恋しくなるのは同じだった。

パヴェルは大学生活に戻り、また勉強とアルバイトで忙しい日々となったが、私へのメールは頻繁ではないにしろ、決して途切れなかった。ちゃんと私の誕生日を覚えていて、ヨーロッパのチョコレートを送ってくれたりもした。

私たちはお互いの生活からベラルーシの政情まで、あらゆることについて意見を交換した。彼の英語は日ごとに上達し、私を驚かせた。

・・・

「誰かいい人見つかった?」

「残念ながら、まだ。でも、この間ロシア人の男の人と知り合いになったよ。彼がスーパーで独り言を言ってたんだけど、ロシア語でののしっててね。それで、ぼくがロシア語で話しかけたら意気投合したんだ。いっしょに出かけたり、サッカーやったりしてる。奥さんとは離婚してるんだって。でも子どもたちはもう成人してるって言ってた。」

それじゃあ、パヴェルの父親と同じくらいの年じゃないの。やっぱりロシア語が話したくなったのかな。あいかわらず気安く友だちを作る子ね。変な人にひっかからないといいけど。

それにしても、どうして彼女ができないのかしら。

私はパヴェルに特定の女性がいなくて嬉しいような、でも彼のためにはかわいそうな気もした。

そのうちに、ちょっと親しくなった女性が現れた。大学で知り合ったバヴァリア出身の娘で、休み中はそれぞれの実家に帰るから、一緒に過ごせないとパヴェルは知らせてきた。これはそう本気じゃないなと思っていたら、いつのまにか自然消滅したらしい。

・・・

パヴェルはクリスマスと新年にはまたベラルーシに帰ることにしていた。今度は飛行機でワルシャワへ飛び、そこからベラルーシへ向かう。アメリカで貯めたお金がまだ残っているのだろう。丸2日間もバスに揺られなくていいのだ。

それでも心配になった私は、パヴェルの誕生日にかこつけて彼のシティバンクの口座に250ドルを振り込んだ。

「あなたが何も要らないというから、何も送らなかったけど、誕生日にはこれで楽しく過ごしなさいな。」

「ありがとう。でも、これ以上ぼくを甘やかさないで。ぼくはアメリカで稼いだお金もあるし、こっちでも仕事してるし、ちゃんと生活できるから大丈夫。それより、ぼくがあなたのために何かできること、ない?」

彼の手をわずらわせたくなかったが、彼の気が済むように何か負担の少ないことを頼むことにした。

「じゃあ、ベラルーシに行ったら、子供向けのロシア語の絵本を1冊買って来て。私はまだロシア語の勉強をしてるんだけど、ロシア人の子どもがみんな知ってるような絵本がほしいの。小さくて薄いのを1冊でいいのよ。」

彼は私のリクエストを聞いて喜んだ。そして、ドイツに戻ってきてから、私宛に航空便で送ってくれた。

届いた箱には、ハードカバーの厚い本が2冊も入っていた。挿絵でわかったのは「大きなかぶ」だけ。他は知らない話ばかりだった。

私のロシア語ではほとんど理解できなかったが、会話集でない初めてのロシア語の本を手にして、パヴェルはこういうのを読んで育ったのかと思いを馳せた。

時代がかった挿絵と奇妙な色使い。ちょっと変わった感触の紙。何度も辞書を引きながら、一番最初に出ていたカエルの話を読んだ。

・・・

本棚に置くと、キリル文字の背表紙が目立つ。夫が「ロシア語?大きな本だね。パヴェルが送ってきたのか?」と私に聞いた。

「そうよ。私はもっと小さい本を1冊だけ頼んだんだけど。通じなかったみたい。でも、あの子らしいでしょ。」

夫は、私とパヴェルがまだ連絡を取っていたことに驚いた。それまで、私は自分の周りに壁を築き、誰にも踏み込ませなかったから。

夫が子どもたちを連れて友人のヨットに泊まりに行った夜、パヴェルがここに来ていたことも知っているのに、その後も夫は何も言わなかった。まさかパヴェルが母親と同じ年の、しかも世話になった自分の妻と逢引をしているとは思わなかったのか。それとも、夫としてのプライドが何も言わせなかったのか。

いずれにしても、パヴェルはヨーロッパにいる。そして、私から会いに行かない限り、私たちが再会する機会はないと思われた。

(次回その69に続く)



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