子どもの日本語とアイデンティティ
2009.11.24 (火)
久しぶりに日本人の友人Nさんと話した。
彼女のご主人は日本人で、小5の男の子と小3の女の子がいる。ご両親に似て、2人とも文武両道に長けており、しかも妹はとても可愛い。
専業主婦の私と違って、Nさんは仕事をしている。多忙なのに、お子さんの日本語教育にも熱心で、補習校はもちろんのこと、毎年夏の体験入学のほかに、年末年始にも一家で帰国する。
休暇を取りやすい仕事だとしても、私はそのエネルギーにただ圧倒されていた。
それが、去年の終わり頃から、「うちの子の日本語はもうだめかもしれない。」とNさんがこぼし始めた。読み書きはどんどん遅れているし、兄妹の間はもちろん英語。両親との会話もだんだん英語に押されているということだった。
私の夫は英語しかできないので、私は子どものほうを向いては日本語で、夫のほうを向いては英語で話さなくてはならない。両親とも日本人だったら「家の外は英語、家の中は日本語」という、バイリンガル教育には理想的な環境だなとうらやましかったのだが、現実は厳しいらしい。
読み書きが難しいのはわかる。うちの子供たちだって補習校に行ったけれど、漢字は小3あたりでついていけなくなり、補習校を離れてからはほとんど忘れたと思う。
でも、長男も次男も、私に対してはいまだに日本語で話すのだ。
生まれたときからそうだったので、今さら英語で話すのはお互いに照れくさい。それに、私の英語はどうしたって間違いがある。見逃してくれる大人と違って、子どもはいちいち指摘するので、話の内容に集中できないかもしれない。
*
親の英語のレベルによるのかなと思って、Nさんに聞いてみた。
「Nさんの英語が上手だからじゃない? 仕事で通用する英語だから、子どもたちも英語でいいんだと思うんじゃない?」
「そうじゃないのよ。やっぱり言いたいことがちゃんと言えるだけの日本語力がないのよ。だから、じりじり英語の部分が増えてきたんだと思う。私も忙しいから、日本語で話しかけて英語で返事が来ても、見逃すことがあるしね。」
「でも、ちゃんと補習校にも通って、がんばってるじゃない。」
「もう来てるだけって感じよ。それに、長男がね、ぼくは Asian American だから日本語ができなくてもいいんだって言うの。」
「Asian だからこそ、日本語ができたほうがいいんじゃないの?」
「そうじゃなくて、American ってとこがポイントらしいの。アメリカ人だから英語だけでいいって。でも、将来どうなるかわからないから、日本語ができたほうがいいよって言ったんだけどねえ。」
お子さんたちの外見は純日本人。Nさん一家はほぼ白人だけが住む、裕福な町に住んでいる。11歳の息子さんはそういう環境で育ち、自分のアイデンティティを気にする年頃になったのか。
*
うちの子供たちは、父親が白人なので、ぱっと見て「いかにも混血」という顔をしている。
長男は、次男よりも日本の血が濃く出ている。次男のほうが色白で、体格もよく、目の色は薄く、髪も柔らかい(ただし、長男のほうが鼻筋が通っていて全体に整った顔をしているので、次男より見栄えがいいと評される)。
そのせいかどうかわからないが、長男は最近こんなことを言う。
「おかあさん、ぼく、何人に見える?」
「アメリカ人と日本人が半分ずつでしょ。」
「そうじゃなくて、ぼくはアメリカの学校に行くと、絶対日本人に見られるんだよ。」
「そうそう。アメリカ人(長男の学校はほぼ白人のみ)の中にいると、すぐわかるわよ。やっぱり顔が違うもんねえ。補習校だって、ハーフの子はすぐわかったじゃない。」
「それで日本に行くと、みんなぼくのことを見る。アメリカ人だから。」
「そうそう。だって、どう見ても白人の血が入ってるもんねえ。やっぱり顔が違うのよ。」
こういう会話は結論が出ない。
私は馬鹿の一つ覚えみたいに、どうしたって外見が違うんだからとしか説明のしようがない。長男も言いたいことだけ言って、「そっかー。そうだよねー。」で終わる。まだそれ以上の話はしない。
*
精神的にずっと幼かった長男だが、15歳にしてやっと自分のアイデンティティを模索し始めたらしい。
2歳下の次男は、まだそんなことは言わない。もっとも、長男のほうが何でも話すタイプなので、次男は次男で考えるところがあるのに言わないだけかもしれない。
次男の日本語は、長男のより劣る。最近、「えっと、あの」が増えてきてイライラさせられるのだが、日本語を探しながら話しているのが手に取るようにわかるので、気の短い私も辛抱強く聞くことにしている。
学校はもちろん、友だち、ご近所、兄弟、父親、テレビ、パソコン、本その他すべて英語である。生まれたときから日本語と英語の両方で育ってきたとはいえ、勢力地図があるとしたら、日本語はとっくに辺境に追いやられているのだ。
いつかは私への返事も英語になるかもしれないが、今のところは、私と子どもたち(プラス猫2匹)で、日本語のちっぽけな世界を作っている。
<今日の英語>
I would say the chances are fifty-fifty.
確率は5分5分だろうと思います。
遺伝病の可能性を探るために、DNA検査をするという人の一言。
彼女のご主人は日本人で、小5の男の子と小3の女の子がいる。ご両親に似て、2人とも文武両道に長けており、しかも妹はとても可愛い。
専業主婦の私と違って、Nさんは仕事をしている。多忙なのに、お子さんの日本語教育にも熱心で、補習校はもちろんのこと、毎年夏の体験入学のほかに、年末年始にも一家で帰国する。
休暇を取りやすい仕事だとしても、私はそのエネルギーにただ圧倒されていた。
それが、去年の終わり頃から、「うちの子の日本語はもうだめかもしれない。」とNさんがこぼし始めた。読み書きはどんどん遅れているし、兄妹の間はもちろん英語。両親との会話もだんだん英語に押されているということだった。
私の夫は英語しかできないので、私は子どものほうを向いては日本語で、夫のほうを向いては英語で話さなくてはならない。両親とも日本人だったら「家の外は英語、家の中は日本語」という、バイリンガル教育には理想的な環境だなとうらやましかったのだが、現実は厳しいらしい。
読み書きが難しいのはわかる。うちの子供たちだって補習校に行ったけれど、漢字は小3あたりでついていけなくなり、補習校を離れてからはほとんど忘れたと思う。
でも、長男も次男も、私に対してはいまだに日本語で話すのだ。
生まれたときからそうだったので、今さら英語で話すのはお互いに照れくさい。それに、私の英語はどうしたって間違いがある。見逃してくれる大人と違って、子どもはいちいち指摘するので、話の内容に集中できないかもしれない。
*
親の英語のレベルによるのかなと思って、Nさんに聞いてみた。
「Nさんの英語が上手だからじゃない? 仕事で通用する英語だから、子どもたちも英語でいいんだと思うんじゃない?」
「そうじゃないのよ。やっぱり言いたいことがちゃんと言えるだけの日本語力がないのよ。だから、じりじり英語の部分が増えてきたんだと思う。私も忙しいから、日本語で話しかけて英語で返事が来ても、見逃すことがあるしね。」
「でも、ちゃんと補習校にも通って、がんばってるじゃない。」
「もう来てるだけって感じよ。それに、長男がね、ぼくは Asian American だから日本語ができなくてもいいんだって言うの。」
「Asian だからこそ、日本語ができたほうがいいんじゃないの?」
「そうじゃなくて、American ってとこがポイントらしいの。アメリカ人だから英語だけでいいって。でも、将来どうなるかわからないから、日本語ができたほうがいいよって言ったんだけどねえ。」
お子さんたちの外見は純日本人。Nさん一家はほぼ白人だけが住む、裕福な町に住んでいる。11歳の息子さんはそういう環境で育ち、自分のアイデンティティを気にする年頃になったのか。
*
うちの子供たちは、父親が白人なので、ぱっと見て「いかにも混血」という顔をしている。
長男は、次男よりも日本の血が濃く出ている。次男のほうが色白で、体格もよく、目の色は薄く、髪も柔らかい(ただし、長男のほうが鼻筋が通っていて全体に整った顔をしているので、次男より見栄えがいいと評される)。
そのせいかどうかわからないが、長男は最近こんなことを言う。
「おかあさん、ぼく、何人に見える?」
「アメリカ人と日本人が半分ずつでしょ。」
「そうじゃなくて、ぼくはアメリカの学校に行くと、絶対日本人に見られるんだよ。」
「そうそう。アメリカ人(長男の学校はほぼ白人のみ)の中にいると、すぐわかるわよ。やっぱり顔が違うもんねえ。補習校だって、ハーフの子はすぐわかったじゃない。」
「それで日本に行くと、みんなぼくのことを見る。アメリカ人だから。」
「そうそう。だって、どう見ても白人の血が入ってるもんねえ。やっぱり顔が違うのよ。」
こういう会話は結論が出ない。
私は馬鹿の一つ覚えみたいに、どうしたって外見が違うんだからとしか説明のしようがない。長男も言いたいことだけ言って、「そっかー。そうだよねー。」で終わる。まだそれ以上の話はしない。
*
精神的にずっと幼かった長男だが、15歳にしてやっと自分のアイデンティティを模索し始めたらしい。
2歳下の次男は、まだそんなことは言わない。もっとも、長男のほうが何でも話すタイプなので、次男は次男で考えるところがあるのに言わないだけかもしれない。
次男の日本語は、長男のより劣る。最近、「えっと、あの」が増えてきてイライラさせられるのだが、日本語を探しながら話しているのが手に取るようにわかるので、気の短い私も辛抱強く聞くことにしている。
学校はもちろん、友だち、ご近所、兄弟、父親、テレビ、パソコン、本その他すべて英語である。生まれたときから日本語と英語の両方で育ってきたとはいえ、勢力地図があるとしたら、日本語はとっくに辺境に追いやられているのだ。
いつかは私への返事も英語になるかもしれないが、今のところは、私と子どもたち(プラス猫2匹)で、日本語のちっぽけな世界を作っている。
<今日の英語>
I would say the chances are fifty-fifty.
確率は5分5分だろうと思います。
遺伝病の可能性を探るために、DNA検査をするという人の一言。
こっちにやってきて10年。3人のちびがいます。ずっと、読ませていただいてます。どのお話も本当に納得する内容で感心してます。まったく、おっしゃるとうり同感です。毎日楽しみに読ませていただいてます!
コロラド |
2009.11.24(火) 06:21 | URL |
【編集】
初めまして。いつも楽しく読ませていただいています。私は、3歳と5ヶ月の娘がいますが、その3歳の娘はすでに英語の方が強く、日本語で私と話していてもいつの間にか英語で話し出します。やはりその方が楽だということと、言いたい事が言えるのだと思います。毎日どうしたらよいものかと悩みながらではありますが、日本語教育を頑張っていこうと思います。
これからも毎日ブログを読ませていただくのを楽しみにしています。
これからも毎日ブログを読ませていただくのを楽しみにしています。
シアトルより |
2009.11.24(火) 07:08 | URL |
【編集】
こんにちは。
うちの子供たちは5歳と4歳ですが日本語はもうほぼだめですね。私が教えるのが嫌いというのがあって日本語で会話はしているものの英語で返事が返ってきたりして。
そんな中教育熱心な日本人ママに会うと焦ったりする事もあります。うちはラテン系のハーフでどちら側から見ても微妙な感じです。とりあえず思い出したときだけでも日本語を教えていかないとなーと思ってます。
又ブログ楽しみにしてまーす。
うちの子供たちは5歳と4歳ですが日本語はもうほぼだめですね。私が教えるのが嫌いというのがあって日本語で会話はしているものの英語で返事が返ってきたりして。
そんな中教育熱心な日本人ママに会うと焦ったりする事もあります。うちはラテン系のハーフでどちら側から見ても微妙な感じです。とりあえず思い出したときだけでも日本語を教えていかないとなーと思ってます。
又ブログ楽しみにしてまーす。
マコベス |
2009.11.24(火) 07:25 | URL |
【編集】
単純に、2ヶ国語がすぐに学べる状況にあって羨ましいなと思っていました。やはりそれ相応の努力が必要なのですね。以前書いていらした、話す内容や英語でできることが重要というお話には納得いたしましたが、「道具としての英語」さえもままならない私の子ども達はどうしたらいいのでしょうね。留学させるのもお金が掛かります。
りゅうこ |
2009.11.24(火) 08:37 | URL |
【編集】
一番興味のあるトピックがまたやってきて嬉しいです。komatta3さんの日本語での子育てを本当に参考にしていきたいと思っています。長男君、次男君の様子、思うこと、日本語の使い方などの紹介また楽しみにしています。
シネマガール |
2009.11.24(火) 11:22 | URL |
【編集】
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