「山猫」
2009.08.11 (火)
NHK衛星放送でルキノ・ヴィスコンティの「山猫」を見た。
彼の映画は「ヴェニスに死す」しか見たことがなく、あとは姉が見に行った「神々の黄昏」のパンフレットを読んだくらいだった。でも、他の作品も見たいとずっと思っていた。
ただ、アメリカに移住してからはその手の外国映画を見るチャンスがなかったのである。
マンハッタンならそういう映画を上映する映画館があるのだろうが、うちのような田舎では映画館はもちろん、ケーブルでもハリウッド映画ばかりだった。
Turner Classic Movies (TCM)という名画専門のチャンネルはある。コマーシャル無しという触れ込みで、実際そうらしい。
夫はテレビ番組表をじっくり調べる人なので、ときおり私の好きそうな映画がかかると、知らせてくれる。でも、ほとんどがハリウッド映画。せいぜいイギリス映画がたまにあるくらいで、私は生返事をしていた。夫がヨーロッパ映画を無視していただけで、実際はそういう映画も放映されているのだろうか。
どこのチャンネルか覚えていないが、たまに「アキラ・クロサワの映画をやるよ。」と教えてくれる。たいてい、乱か七人の侍か羅生門で、黒澤明はそれほど好みではない私は、聞き取りにくい日本語と英語の字幕を追うのも面倒で、見ない。しかも、どれも1度は見たことがあるものばかりである。
* * *
新聞のテレビ欄で、「山猫」を日本語字幕で放映すると知って、これは見逃せないと思った。昔は、外国映画は声優が日本語で吹き替えをしていたのが多かったと記憶しているが、二ヶ国語放送で言語を選べるようになったせいか、「二」と表示されている番組が多い。
こういう作品が、衛星放送とはいえ、公共テレビ番組で放映されることは、アメリカの少なくとも私の日常では起こりそうにない。
翌日は、フェリーニの「8 1/2」。これもイタリア語に日本語字幕。前に見たことがあるし、なんだかシュールで私の好みではなかったので、今回は見なかった。
* * *
「山猫」では、19世紀後半シチリアの没落しつつある貴族サリーナ公爵(この家の紋章が山猫)をバート・ランカスター、彼の甥っ子タンクレディをやたら若いアラン・ドロン、タンクレディの婚約者となるブルジョワ美女アンジェリカを私には野性的すぎるクラウディア・カルディナーレが演じた。
ランカスターがバスタブに入っているときに来客があり、彼が裸で立ち上がるシーンがある。もちろん上半身しか見せないけれど、老体とは思えない、均整の取れた美しさだった。ランカスターはメイクアップで老けてみせただけで、本当はもっと若いのかもしれないと思った。
それだけでなく、トランプをしても散歩をしても、さまになるというか絵になるのである。
後半で、アンジェリカの社交界デビューとなる舞踏会が圧巻なのだが、そこで彼女がサリーナ公爵にマズルカを一緒に踊ってくれと嘆願する。サリーナ公爵は、マズルカでは体がついていかないがワルツならと、応じる。
そして、大広間に向かうとちょうどワルツが始まったところで、サリーナ公爵はアンジェリカの手を取って踊り始める。彼のダンスは滑るように優雅で、しかも色気があり、華があるというか迫力があった。
ランカスターに比べれば、その前に彼女と踊っていたドロンなんか、幼稚園のお遊戯にしか見えなかった。フレッド・アステアさえ、隣で踊っていたら高校生のダンス・チャンピオン程度という気がした。
あのダンスシーンだけで、この映画を見た甲斐があったと思ったほどである。
舞踏会では、サリーナ公爵はとても疲れた様子で、今にも心臓発作でその場で死んでしまうかもしれないとハラハラしたが、ヴィスコンティはハリウッドみたいなそんな安っぽい演出はしなかった。
* * *
アメリカで外国語映画を原語で見ようと思えば、DVDを注文すればいいのだろうか。
アメリカのテレビや映画業界に愛想を尽かしている私であったが、日本で見た「山猫」のおかげでまた(ハリウッド以外の)映画が見たくなった。
クリック募金を始めました。下記サイトにて協賛企業のリンクを各社1回クリックすると、1円ずつ募金できます。
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
| ホーム |