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愛人ごっこ その8

2009.07.07 (火)


(前回その7の続き)

キャンプ最終日の前夜、子どもたちに言った。

「カウンセラーにサンキューカードを書かない? パヴェルにはロシア語でありがとうって書いたら喜ぶと思うわよ。」

次男はキリル文字を一つずつ書き写し、自分の名前をサインした。

私はパヴェルに会えるのも明日で最後だと思い、沈んでいた。キャンプはあと2つのセッションが残っていた。つまり彼は少なくともあと1ヶ月はNYにいるのだった。でも、うちは今のセッションしか申し込んでいなかった。

今からでも入れてもらえるかもしれないが、結局キャンプは終わるのだ。

私はパヴェルに宛てて、この2週間彼と話をしたのがどれだけ楽しかったか、手紙を書いた。そして、一期一会という日本の言葉を説明した。

ベラルーシに生まれ育ったあなたと、日本で生まれ育った私がNYの田舎で会う確率なんて、いったい何百万分の一でしょう。この夏、こんなめぐり会いが待っているとは夢にも思いませんでした。

同封したお金は、2週間の楽しい講義のお礼です。あなたの好きなように使ってください。

・・・

最終日の夕方、どこのグループでも握手や抱擁が見られた。

次男が「いままでありがとう、パヴェル。」と言ってカードを渡し、彼は封を開けて、「こっちこそありがとう、次男君。楽しかったよ。ロシア語、上手に書けたね。すごいよ。」と次男を抱きかかえた。

次男が友だちと連れ立ってジャングルジムへ向かうのを見届けてから、パヴェルの手に私の封筒を押し当てた。そして、「この中にお金が入っているの。ほんの少しだけど。次男がとってもよくしてもらったから、そのお礼。それに、私のおしゃべりに付き合ってくれたから。」と早口で言った。

彼の白い顔がぱーっと赤くなった。

「あの、そんなことしていただかなくてもいいんです。ぼくも楽しかったですから。」

「たいした金額じゃないって言ったでしょ。素直に受け取りなさい。大人の言うことにはさからっちゃいけないの。他の人に見つからないようにね。」

「ありがとう。あなたは本当に親切な人です。お会いできてよかった。」

そして、私たちは初めて握手をした。大きな、それでいて繊細な、さらりとした手だった。

彼の写真がほしかった私は、子供たちをパヴェルの横に立たせて何枚か写した。

「じゃあね。さよなら。もう До завтра (また明日)じゃないのが寂しいわね。元気でね。」

そうして、2週間が終わった。

・・・

パヴェルに会えなくなってからも、私はいつも彼のことばかり考えていた。そして、キリル文字を勉強し、3週間かけて読めるようになった。ロシア語のフレーズをいくつも覚えた。

キャンプは8月の終わりまである。まだパヴェルはここにいる。すぐにでも会いに行ける。

でも、もう行く理由はないのだ。

あのお金、どうしたかな。たった50ドルだけど、彼にとってはもっと価値があるんじゃないかしら。20ドルじゃ少ないし、でも100ドルだと負担に思うかと、50ドルにしたんだけど、100ドルのほうがよかったかな。

子どもたちに「おかあさん、パヴェルのことばっかりしゃべってるね。」と言われて、はっとした。

そうなのだ。朝起きてから寝るまで、彼のことで頭がいっぱいだった。何とか会う口実はないだろうか。小さいフレームに入れてベッドルームの棚に飾ってある写真―彼だけでなく、子どもたちも一緒に写っている―を眺めた。

でも、9月になって学校がはじまり、また毎日の生活に戻って、以前ほどはパヴェルのことを考えないようになった。

それでも、ロシア語の魅力に取り付かれた私は、いろいろ本やCDを買って勉強だけは続けた。そういう新しい楽しみを教えてくれた彼に感謝した。

・・・

9月の何日だったか、まだ早い頃だと思う。夕方、電話が鳴った。

受話器を取ると、「ハロー?」というくぐもった声が聞こえた。接続がよくないのか、ノイズがある。

私の心臓はドキンと一度大きく打った。パヴェル―。

ついに来た。なぜか、こうなることはずっと前からわかっていたような気がした。

彼に渡した手紙には、何か困ったことがあれば電話するようにと私の電話番号を書いておいた。でも、あれからすでに1ヶ月以上経っていたのだ。

「次男君のおかあさんですか。ぼく、パヴェルです。覚えてますか。キャンプの。」

「もちろんよ。元気? どこからかけてるの? あなた、まだNYにいたの?」

「元気です。あの、ぼくはあなたに会って話したいことがあるんです。お願いがあって。でも、お金を無心してるんじゃありません。」

「お金でもなんでもいいわよ。遠慮しないで、言ってちょうだい。」

「電話でなくて、直接会ってお話ししたいんです。これから伺っていいですか。できればキャンプまで迎えに来てくれませんか。」

「今ね。次男が昼寝をしているの。タクシーを呼んでいらっしゃい。」

そう言って私は道順を教えた。

子どもを起こして車に乗せてもよかったけれど、いくらか私は警戒していた。電話ではできないそんな深刻な話ってなんだろう。自力で私の家に来る価値があるかどうか、彼に判断させよう。彼の意図を見極めたいと思った。

「わかりました。じゃあ、すぐに伺います。お家にいてくださいね。待ってて。」

「大丈夫よ。どこにも行かないから。電話してくれてありがとう、パヴェル。」

(次回その9に続く)


<今日の英語>

Those words have rung in my ears for all these years.
あの言葉がずっと私の耳に残っていました。


NYタイムズの結婚アナウンスメントより。高校時代からの恋人に結婚を申し込まれたけれど、まだ早すぎると断った女性。がっかりした男性は「二度とキミとはデートしない!」と言って去ってしまった。二人ともそれぞれ恋愛をしたが、結婚にはいたらなかった。彼女は何度か彼に連絡を取ろうと思ったが、10年以上前に言われたこの一言がずっと頭にあって、ためらった。結局、彼からメールして二人は交際をやり直し、このたびめでたくゴールイン。



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