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やれやれボストン

2013.04.21 (日)


月曜日の夕方、ボストンマラソンのゴール付近で連続爆発があったというニュースを聞いた。

長男の時間割を見ると、授業中だった。マラソンには縁のない子なので、大丈夫だろうが、爆発の映像は強烈である。

ふだんは授業時間に連絡しないようにしているものの、緊急時とて短いテキストを携帯に送ると、思いがけずすぐに返信があった。

"Daijobu." 

授業中なのに携帯をつけていていいんだろうか。

なんの気なしに、マラソンのコースを調べると、爆発の起きた場所は長男がよく行くキャンパスに近い。案外のんびり授業を続けるんだなと思った。

そのときは知らなかったが、当日はマサチューセッツ州の休日で、大学も休み。長男は寮にいた。

アメリカでは州によって特別な祝日がある。日本のように全国統一の祝祭日で育った私は、いつまでたっても慣れない。


       *


いったいどういう馬鹿がこんなことをするのだろう。

素人っぽい爆弾だというから、アルカイダではないのか。オクラホマの連邦ビル爆破のような、反政府主義アメリカ人の犯行か。ボストンは大学町だから、テッド・カジンスキーみたいな半天才・半狂人タイプか。

私はのん気に想像していたが、事態は深刻だった。

空港は閉鎖、現場近くでは避難命令が出たり、ヘリコプターが上空を警戒したり、このところアメリカ国内でのテロはなかったのに、事件のスケールや衝撃度は違えど、また9/11に引き戻されたような気になった。

長男がどこの大学に行くかを決めたとき、ボストンのほかにマンハッタンやフィラデルフィア、シカゴも候補に入っていた。

NYはなんといっても9/11の現場だし、街そのものは昔にくらべて治安はいいものの、テロの格好の標的であることは変わりない。フィラデルフィアはすさんだ地域があるし、シカゴはサウスサイドという危ないところもある。

長男の第一志望はボストンで、キャンパスはケンブリッジにもあり、一番安全そうだった。

ツインタワーに突っ込んだ飛行機はボストンのローガン空港発で、テロリストのセルはあるかもしれないが、地元での被害はなさそうに思えた。

私の一番の心配は、ノーと言えない長男が悪い女にだまされやしないかという他は、ぼんやりうっかり長男が車にひかれやしないか、雪道で転びやしないかというものだったのである。


         *


2日ほどして、容疑者の映像が流れた。

監視カメラから分析したもので、画像は荒いが、よくまあ見つけたものだ。

こういうときのFBIやCIAの仕事ぶりにはいつもながら感心させられる。ふだんは、気の利かないスーパーの店員やいい加減な芝生管理会社の作業員などが標準で、もはや腹も立たず、期待もしない。

だから、事件が起きてテキパキと対応する当局が頼もしく、「やればできるじゃないの!」と褒めたくなるのだ。アメリカは平時は適当すぎてだめだが、有事の際には底力を発揮するようにできているのか。

献血も集まりすぎるほど集まり、間に合ってますと赤十字がPRしていた。さすがカレッジタウン。活きのいい血液がたっぷり集まっただろう。

それはともかく、容疑者はどこにでもいそうな白人だった。大学の街ボストンにはそれらしき若者が何万人もいる。なかなかつかまらないだろうという気がした。

そのうちブログに書こうと悠長に構えていたら、現実は待ったなしだった。


        *


翌朝、目が覚めてラジオをつけると、事態は急展開していた。

容疑者二人はケンブリッジのコンビニで強盗、カージャックをして盗んだ車で逃走、MITに配属されたばかりの若い警察官が巻き込まれて死亡。

そして、容疑者二人は兄弟で、兄は警察との銃撃戦で死亡したが、弟は逃げてしまい、警察が追跡中と報道された。

撃ち合いのあったウォータータウンは、うちからボストンへ向かうハイウェイで見かける地名だ。どこだっけとグーグルマップを見ていたら、ボストンの地下鉄もバスもすべて運行中止という前代未聞の措置が取られ、住民は外出禁止になった。ドアを施錠し、窓から離れろと繰り返す。警察がしらみつぶしに調べていく。大学もビジネスもすべて休業。

まるで、できの悪いB級映画である。

とりあえず長男に「寮から出ないように。ドアはロックするように」と念を押した。長男は「わかってる。だいじょうぶ。食べ物あります。学校のすぐそばで、拳銃の音がしてた」とおっとりテキストしてきた。しかも、前日には夜中の2時に、大学構内の自動販売機でスナックを買っているのだ(大学発行のキャッシュカードの記録にある)。おやつの心配をしている場合か。

一軒家を改造した寮なのでこじんまりしているが、それでも20人はいるだろう。ルームメイトのジョンもおっとりタイプ。しっかりした女の子たちが頼りである。


         *


容疑者兄弟はチェチェン出身だった。そういえば、監視カメラに映った彼らは、目元が濃かった。

ものすごい勢いで、いろんな情報が公開されていった。

容疑者兄弟のSNSや高校時代の友達、メリーランドに住むおじさんや、病気の治療でロシアに帰国中の父親、ニュージャージーに住む姉など、続々と関係者が浮上した。ほんの1年前と比べても、伝達スピードは格段に速く、範囲は広く、また情報量は何倍も多いと思った。

彼らの住んでいたアパートの住所を検索すると、長男のいる寮からもそう遠くない。そんな近くで爆弾を手作りしていたとは。

一番安全そうだったボストン、ケンブリッジでこれである。

私が何度か訪れて、歩き回った街に、装甲車が走り、武装した警察官や特殊部隊が銃を構えるシュールな映像が流れる。

こんなとき、急に産気づいた妊婦はどうするんだろう。命がけで病院へ向かうか、装甲車に乗せてもらうか、だめなら自宅で出産か。ブリザードのときと同じく、私はそんなことが気になる。

現場中継では、シェパードが何度も映った。警察犬の鼻で追跡すればすぐ見つかるだろうと思ったが、そうではなかった。

これがニューヨークや東京だったら、果たして地下鉄やバスを止めて、会社も学校も閉鎖して、自宅から一歩も出るなという戒厳令が実行できるだろうか。ボストンといっても、いまや犯行現場は郊外だから、町全体の封鎖もできないことはないのか。

うちみたいに、もう少し田舎だと、森も湖もあるし、封鎖しても抜け道がいくらでもありそうで、どっちにしてもボストン市の思い切った決断はすばやく、徹底的だったと、これまた妙に感心した。


         *


もう容疑者は他の町へ脱出したかもしれない、これは長期戦になるかもしれない、長男はどれくらい食料を持っているだろうかと考えていたら、また進展があった。

容疑者はつかまっていないのに、外出禁止令が解除された。

どうもよくわからないが、そういつまでも町全体をロックダウンしておけないということか。

しかし、この事件は急展開を続け、警察は容疑者の居場所を限定できたらしく、道路の名前が報道された。ここは撃ち合いにならず、生きたまま逮捕してもらわねばならない。

怪我を負った弟は説得に応じたのか投降し、病院に収容された。

(弟はある家の裏にあったボートに隠れ潜んでいた。皮肉にも、外出禁止令が解除されたあと、その家の人がボートへ続く血痕を見つけ、ボートのシートをはずしたら血まみれで、警察を呼んだという。警察犬でも匂いをたどれなかったのはなぜだろう。)

ほかに共犯がいる可能性もゼロではないが、ともかくこれで事態は収拾し、地下鉄も動き出した。

容疑者の母親のインタビュー音声を聞いた。流暢な英語でしっかりした話しぶりだったので、てっきり通訳の声かと思ったら、本人だった。チェチェンで弁護士をしていたと聞いて、合点がいった。彼女は息子たちは誰かにはめられたと主張している。

19歳といえば、長男とほぼ同い年。世間に顔向けできないようなことだけはしてくれるなとあらためて思う。


          *


ところで、世界の地理に弱いアメリカ人。

容疑者がチェチェン生まれというニュースで、なぜかチェチェンとチェコを混同する人たちが現れ、駐米チェコ大使が地図を出して説明する羽目になった。人種も場所も発音もまったく違うのに、いい迷惑である。

アメリカのサイトでは、今回のテロで初めてチェチェンの独立紛争やロシアとの関係を知ったというコメントもしばしば見かけて驚いた。

たとえばアフリカの部族闘争についてなら私も無知なので偉そうなことは言えない。しかし、チェチェンはメジャーだ。モスクワの劇場を占拠したのも、ノース・オセチアの小学校占拠もチェチェンの独立派がかかわっていたのは周知の事実だと思っていたし、アメリカのメディアでもよく報道されていた。

どこをどうやったら、Czech Republicと Chechnya がいっしょになるのか。

これでは、中国と日本を混同する人がいても不思議ではない。

そして、容疑者逮捕のニュースに街中で"USA! USA!"とオリンピックで応援するようなシュプレヒコールが上がったのにも、別の意味で驚いた。

確かに警察もFBIもよくやった。市民も団結、協力した。容疑者の生け捕りという最善の結果だった。しかし、何人も死んで重症者も大勢いる状況で雄叫びという感覚は、私にはない。

いつか市民権を取っても、あんなシュプレヒコールは自発的に出ないだろうと思った。


<今日の英語>

That's unfortunate..
そりゃ残念だったね。


先日見つけて気に入ったスナックlentil chipsがスーパーに売っていなかったことを夫に告げたときの返事。
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地下鉄の駅のバイオリン弾き

2013.04.22 (月)


ボストンマラソンの3日前に、ハフィントン・ポストで見つけたビデオ。
【4月23日 もう一曲追加】

元歌は聞いたことがなかった。テイラー・スウィフトは顔と名前だけ知っていた。あとは、背の高い、若いカントリーシンガーということ。猫みたいな目が素敵だなと思っていた。

バイオリニストのカバーを何度か聞いて、オリジナルを探したら、長いミュージックビデオで、なかなか曲が始まらないのに待ちくたびれて消した。その後、音楽だけのファイルを見つけて、初めて聞いた。なるほど、人気のほどがうかがえる。私がイメージしていたカントリーとはまるで違った。

しかし、私はこっちのほうが好みである。

Subway Violinists - I Knew You Were Trouble - Rhett Price & Josh Knowles - Taylor Swift cover




ビデオの雰囲気もいい。ぼ~っと聞いている人、歩み寄ってうれしそうにバイオリンケースにお金を入れる人、じっと見つめる赤ちゃんとそばにしゃがむ母親、静かにリズムを取る人、ホームにすべりこむ地下鉄、ときおりにっこりする演奏者。そして、控えめな拍手。

他のカバーも聞いたが、いかんせん元歌を知らない。ビートルズのEleanor Rigbyとマイケル・ジャクソンのBilie Jeanくらいか。

それにしても、ニューヨークの路上や地下鉄の駅ではパフォーマーは珍しくないが、ボストンではあまり見かけない。彼らも無許可で演奏して追い出されたことがあるらしい。しかし、今では駅員からリクエストされるという。

東京ではどうなのだろう。私が住んでいた当時(20年以上前の話)は見た覚えがない。

と書いてみて、過剰な構内アナウンスと殺人的な混雑では無理なのだと勝手に納得した。


        *


せっかくなので、もう一曲。こちらは地下鉄ではなく、室内で。セクシーなバイオリン。




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予定外の里帰り

2013.04.24 (水)


お正月明けに姉から電話があった。

「あのヒト、夏にアメリカに行くって言ってたわよ。長男くんと次男くんの顔が見たいって。」 

あのヒトとは私の母である。

母には次男の病は告げていない。心配の種を増やしてどうすると思う。

姉にはほとんどすべて話しているので、私が母に内密にしていることも知っている。対策を立てるために、事前に教えてくれたのだ。

このあいだ日本に帰ったのは2009年の夏(自信を持って言えるのは、ブログの過去記事にそのときの話が書いてあったからである)。もうすぐ丸4年になる。実感としては、ほんの2年前。

長男が大学に入ったあと、次男一人だけなら学校や習い事の送迎も夫がどうにかできるだろう、もう小さくないから夫と次男とで食事くらいどうにでもできるだろう、私一人だけで帰ってもいいと考えていた。

でも、秋に次男が発病して、それどころではなくなった。


         *


幸い、今月から外泊許可が出た。週末の1泊だけ帰宅すること2回。でも、まだ退院の話はない。

しかし、1月の時点で夏にどうなるかはまったくの白紙だった。母がこっちに来るとき、次男が入院している可能性もあった。それは困る。

姉から電話があった翌日、母からメールが来た。

長男君も次男君どんなにか、大きくなったことでしょう。
夏休み長男君次男君いるときに、10日ぐらいそちらに行きたいと思っています。
私も80歳になります、若いつもりでいるけれど。
kometto3 日本に来る予定ありますか?

例によって前後にわけのわからんことが付け足してある母のメールを、そのまま姉に転送し、「どう返信すべきか考慮中」と書いた。


         *


「まだ具体的な日程は決めていませんが、今年は日本に行こうかと思っていました」と白々しく作文した。

そして、おいしいものを食べたいし、本屋に行きたいし、メガネはやっぱり日本で作りたいしと、あれこれ理由を挙げた。そして、大学生の長男は夏に計画があるかもしれない、次男は大学に向けて忙しいかもしれないなどと、今そのメールを読み返すと、妙に言い訳がましい、いかにも怪しい文面である。

その上、

80歳の人が渡米するより、51歳の人が帰国したほうが
危険度が少ないと思います。知り合いで親御さんが遊びに来て
病気や怪我をして大変だったという話をたまに聞きます。

と、あることないこと取り混ぜて、いかに母の計画が無謀であるかを説得しようとしていた。

「とにかくまだ1月初旬なので、ぼちぼち計画します」と、文字通りの時間稼ぎをして締めくくった。


          *


母親にはたいてい直感というものがある。なかなか返信がなかったので、なにか悟られたかもしれないと思った。

2週間も経って(自分がメールを出したことを忘れていたのか、受信メールを頻繁にチェックしないのか。これではエアメールのほうが早い)、いつも以上に文法無視の支離滅裂な返事が来た。

こっちへ来てくれる、80歳の人が渡米するより、効率が良いか?
長男君次男君、来れるといいね。
子供も大きくなると、それぞれ都合があると思いますが。
長男君日本製で注文の品ありますか?画材とか考えてください。次男君何が欲しいかな?
考えておいてください。自動車は駄目です。それより小さいものでお願いします。今日は、Tさんの半纏作っています。

と、唐突に裁縫の話で終わっていた。袢纏(はんてん)のことである。

今年は里帰りするつもりはまったくなかったが、こうなっては私も腹をくくるしかない。

次男の医療チームは、仮に夏に退院できたとしても、外国、しかも日本のような遠いところへ旅行するのはやめたほうがいいと言い、私もそう思った。

9月にはハイスクールの最終学年にあがる次男は、病状がよくなれば、夏は大学見学や願書の準備で忙しくなる。しかし、それが理由で日本に行けないというのは苦しい言い訳だ。そんな状況で私が次男をほっぽって日本でゴロゴロするのも不自然きまわりない。

嘘をつくにはエネルギーがいる。


            *


こうして母のニューヨーク訪問を阻止するための計画ができた。

長男の大学は5月の第3週で終わる。次男のハイスクールは6月21日が最終日。その前に退院できても、学校があるので日本には行けない。

つまり、私と長男だけが5月下旬から6月半ばまでに里帰りすればいいのである。母は孫息子の一人に会えるし、もう一人が来ない理由も筋が通っている。

しかも、長男がキンダーガーテンに上がってから、日本には真夏しか帰っていないのだ。1ヶ月以上の休みは、夏しかない。子どもたちは真夏の日本しか知らないし、私だってもう15年以上、それ以外の季節に帰ったことがない。

冷房のある部屋から出られず、春や秋のおいしいものを食べられない帰省はここらで終わりにしたいと、さらに言い訳がましいことを母に書き送った。

1週間経って、

長男君次男君
大きくなったでしょう。逢うの楽しみです。

そのときは、長男だけ連れて行くとはっきり言わなかったせいだ。それどころか、入院中の次男にも里帰りの話は一切していなかった。

子どもたちが小さいころ、母は長男より次男のほうがお気に入りだった。偏食で神経質だった長男は、だいぶ大人になったが、緩衝材だった次男がいなくて母とぶつからないだろうか。

それより、うっかり長男が、次男の病気のことをポロッと口に出さないだろうか。あれやこれや、気をもむ。

予定外の里帰りがこんな形で決まってしまった。


<今日の英語>

Thanks for checking in.
安否を気遣ってくれてありがとう。


ミシシッピ川が氾濫して中西部が洪水に見舞われたというニュースを聞き、ミズーリに住むG氏に大丈夫かどうかメールしたときの返事。We're "high and dry" here.と書いてあった(元は、船が座礁している状態を意味する。転じて、取り残される、行き詰る。ここでは、高いところにいて乾いている、つまり洪水の被害は蒙っていないと言いたいらしい)



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予約だけで疲労困憊

2013.04.25 (木)


日本に行くとなれば、まずは切符の手配である。

しかし、すぐに取り掛からなかった。たまに切符の値段を調べたりしたが、真冬なのに高く、格安はまだ出ないだろうと思った。

パート仕事はしていたし、次男の病院は遠く、医者や学校とのやり取りもあって、落ち着かなかった。そのうち、冬のジャケットが要らなくなり、台所の窓から見えるクラブ・アップルが芽吹き始めた。

すでに3月末。出発予定日まで2ヶ月を切っていた。

いつもJFKから成田だったが、今回は羽田という選択肢がある。あの成田エキスプレスに乗らなくて済むぞと、気分も軽くなる。実家は地方なので、東京駅から新幹線、さらに在来線にも乗り換えねばならない。NYの自宅を出てから実家の玄関に入るまで、24時間の旅だ。少しでも短いほうがありがたい。

しかし、現実は甘くなかった

羽田着は夜の10時15分。帰りは早朝6時55分発。いかにもビジネスマン向けのスケジュールである。

これではとても地方へ直行できないし、帰りはいったい朝何時に起きればいいのだろうか。成田のほうがまだしも便利かもしれない。しかし、成田エキスプレスはどうする。あんなものにお金を払いたいのか。東京駅についてから新幹線乗り場への迷路はどうする。いつも迷ってクタクタになるではないか。

だんだんイライラしてきて、そのうち、いったい誰がこんな時刻表を作ったのよ!と夫に当たってもしょうがないが、言わないではいられない。

JFKへの送り迎えは夫に頼むが、平日の早朝はラッシュアワー。短気な夫には危険だ。帰りは週末にするしかない。


         *


巷のうわさどおり、もはや格安なんてなかった。昔を知っているだけに、どれを見ても高く、決断できない。

窓際に二人一緒に座ろうと思うと、行きはお得意様の優先席しかなく、どうにか通路側とその横が取れた。モタモタしていたら、取れなくなってしまう。5月で学校が終わる州もあるし、悩んでいる余裕はない。帰りはさすがにまだ座席が残っていた。

燃料費と税金込みで、一人当たり1,222ドル。長男と二人分で2,444ドル。切符代と燃料費が半々くらいだった。

夏休みに入ってからならともかく、5月20日前後なのに安くない。

安くないが、よく考えたら、地球の反対側まで13時間で連れて行ってくれるのである。500ドル分の燃料くらいは必要かもしれない。それに、パイロットにフライト・アテンダントにメカニック、空港で働く人たちの給料も払わねばならない。そんなに安く飛べるわけがないのだ。

そうやって自分に言い聞かせ、その後の値段の推移は見ないようにしている。精神衛生に悪い。

ケチな私は、返金不可の切符を買ったからには、それを無駄にできない。

日本行きの覚悟を決めた。


          *


いつもだったら新幹線の時間を調べるところだが、今回は東京に一泊するためにホテル探しである。

ホテルのロビーを出たらチェックイン・カウンターと言うエクセル東急にするつもりが、国際便ターミナルにはシャトルバスに乗って10分もかかると知り、がっかりした。なんで繋げないのだ?!

期待していただけに、フライトスケジュールとこれで、羽田のイメージががくんと落ちた。

地図を見てもよくわからないが、動く歩道が作れないのだろうか。しかも、朝一番の出発バスは5時だった。それで間に合うのか。バスが満員だったら次のバスに乗れとある。ずれ込んでいったらどうするのだ。

こっちも悩み、あちこち検索して、もっと早い早朝バスが出る別のホテルにした。朝食込み大人二人で14,200円。帰りは朝食を空港で取ることにしたので、少し安い。

この価格が適当なのかどうかわからないが、それ以上検索する気力がなくなった。

旅行が好きな人は、計画段階からわくわくするらしい。自分が行かなくても、他人の旅行計画を立てるのが楽しいなんていう人もいるらしい。

私は座席指定のサイトを見るだけで、気分が悪くなる。飛行機とホテルの手配だけで疲労困憊してしまった。


         *


これで飛行機もホテルも確保できた。

ところが、旅行も出張も軽々とこなす姉がはりきって提案する。

せっかく東京に一泊するなら、そのまま田舎に行くのはもったいない。到着日だけ羽田付近に止まって、そのあとは横浜に2泊しろという。そして、東京、横浜、鎌倉に長男を連れて行きたいという。

私はホテル検索に戻り、ふだん縁のない日本の旅行サイトをウロウロした。

幸い、姉が2件に絞ってくれたので、姉の会社に近いほうに決めた。2泊で朝食付き、22,000円。長男と二人で42,000円。

時期的に割引率が高いせいか、姉の会社で使える割引とどっちも同じくらいだった。

「もっと安いホテルでもいいんだけど」とお金を出し渋る私に、「あー、だめだめ。あんたにはビジネスホテルなんか泊まれないわよ」と姉。確かに私は文句が多いし、神経質だが、か弱くもない。

むかし、アラバマかテネシーの田舎で親戚の結婚式に呼ばれたとき、皆が泊まったホテルがいわゆるモーテルだった。

なんだかねっとりしたシーツと枕。部屋にこもる妙な臭いと、隣や上下の部屋から聞こえる音。あれは最悪だった。2泊したが、私は2日目はもっとまともなところに泊まろうと夫に訴えた。そのときの話を姉は覚えているのかもしれない。東京ならそんなひどいところはないと思うのだが。


          *


東京周辺の観光は姉に一任した。

私はどこになにがあるのか知らないし、知っていてもどうやって行くのかわからない。人ごみも観光も苦手だから、一人でホテルで昼寝したいくらいである。せっかく高いお金を出すのに、シャワーに入って夜寝るだけなんてもったいない。

これまでの出費をまとめてみる。

飛行機の切符 244,400円
羽田のホテル到着日 14,200円
羽田のホテル出発日 12,900円
横浜のホテル 42,000円
------------------------------
合計 313,500円

これに、新幹線の切符が加わる。自由席なら二人で16,000円。指定席なら18,000円。

実家では宿泊無料三食昼寝付きではあるが、姉は長男を京都と奈良に2泊3日で連れて行くという。美術専攻ならぜったいに(どこそこのなんとかを)見るべきだと主張する。

すでに、いいホテルを予約したと聞いて、「そんな高いところ払えないわよ。もっと安いとこにして」と言ったら、「あんたが払うんじゃないの。私が払うんだからいいの」とのありがたいお言葉であった。

持つべきものは、独身でキャリアウーマン、かつ気前のいい姉である。


          *


パートではどうせ3週間も休みをもらえないだろうし、たぶんレイオフされる。そうでなくとも、いいかげん飽きてきた。パソコンの仕事なので目も疲れる。この機会に仕事を辞めようと思っていたが、上の数字を見て首になるまで続けることにした。

一銭にもならないブログなんか書いている場合じゃないのだ(でも、書くことが好きなのでやっている。言いたい放題できて、ストレス発散にもなる)。

勝手に増えるアクセス・カウンターを見て、あの数字の前に$とは言わない、せめて¥のマークがついて、私のものだったらなあと妄想する。

あるいは、夫が手伝っているG氏のスタートアップが大成功してお金が儲かったら、ビジネスクラスで日本に行くぞ!と思う。ファーストクラスじゃないところが、私の貧乏性たる所以である。



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大学寮のドラマ

2013.04.28 (日)


昨夜、1週間ほど音沙汰のなかった長男から電話があった。

大学1年目もあと3週間で終わる。美術専攻の長男はプロジェクトで忙しいのだろうと思った。先週は論文の宿題で手こずっていると聞いたので、昔から作文が下手だったからそっちもまだできてないのかもしれない。メールに返事がないのでちょっと気になっていた。

そうでなくても、長男や次男と電話で話すとき、最初に私の口から出るのは「元気?大丈夫?」である。

彼らも「うん、元気。うん、大丈夫」と言う。

長男は家を離れるとき、「ぼく日本語忘れたらどうしよう」と本気で心配していた。私は、「そう簡単に忘れないでしょ。18年間しゃべってるんだから。それに、ボストンには日本人留学生もたくさんいるみたいよ。あんたの大学にもきっと誰かいるわよ」と送り出した。

最初のころ、毎週金曜日をスカイプの日にしていた。そのうち、1週間おきになり、いつのまにかスケジュールに入れなくなった。

そのかわり、長男から不定期に電話がかかるし、私は用事があるときにそうする。おしゃべりで、小さいときから私にいろいろ話してくれた長男は、ティーンになってもそんな感じだった。大学に行っても変わらないので、そういう性格なんだろう。

ちなみに日本人の友達はいないが、日本語は忘れていない。


        *


「あの子、よくマメに連絡してくるわねえ。私なんて、大学4年間で数えるほどしか親に電話してないわよ。田舎から出られたのがうれしくて、親のことなんか忘れてた」と夫に言うと、「ぼくだってしてないよ。親からもかかってこなかったな」と夫。

夫は40年前、私は30年前の話である。今は携帯やスカイプという便利なものがあって通信事情は違うにしろ、長男はいい子だねと親バカになった。

そして、「長男くんはよく電話してくれていい子だねってダディと話したのよ。毎週スカイプしてたときもいやがらなかったし」とほめると、意外な返事が返ってきた。

「お母さんなんてまだいいほうだよ。ぼくのドーム(寮)にいる子たち、ハウスメイトって呼ぶんだけど、最初の1ヶ月くらいお母さんやお父さんから毎日何度も電話やテキストがあって、They drive me nuts!(気が狂いそうだ)って言ってた。」

「親御さんは心配なのよ。女の子でしょ。」

「ううん、男だって女だってそうだよ。そりゃ、ぜんぜん電話がないっていう子もいるけどさ。」

世の中の親はもっと心配性なのか。

私は頼りない長男の自立のチャンスと捉えているし(今苦労させないで、いつさせるのか?)、なにしろ大学という後ろ盾があるので安全だろうと思っている。それに、大学発行のカード使用履歴で、どのカフェテリアでいつ食事したか、いつ自動販売機で買ったか(以前は洗濯の時間までわかった)追跡できるし、私が持たせたATMカードでも行動が把握できる。

とにかく食べていればよしとした。


         *


忙しくてあまり寝ていないという理由の一つは、寮でいろんなことが起きたせいである。

長男はそれをdramaと呼んだ。

「同じドームの男の子なんだけど、ガールフレンドがめんどくさい子で別れようとしたら、I'm pregnant!って脅すんだよ。嘘なんだよ。それで何度もワーワーやっててさあ。」

「あー、そりゃ女の常套手段だわね。だから女には気をつけなくちゃいけないのよ。なんだって女のほうが上手(うわて)なんだから。」

長男は春休みに帰省したとき、遠距離恋愛をしていた地元のアナスタシアにあっさりふられた。せっかくトトロのぬいぐるみをおみやげに買ってきたのに、うちに遊びに来る前日にハイスクールのイベントで会って、別れましょうと言われたらしい。それでも、翌日は予定通りにうちに来て、ちゃっかりぬいぐるみを持ち帰った。

ボストンでは誰とも付き合っていないと思う。

「ほんと、めんどくさいんだよ。ジョンもガールフレンドと別れたんだけど、その子昔からkidney stone(結石)があったんだって。でも、6年もお医者さんに行ってないんだって。それで、そのことでしょっちゅうジョンを自分のドームに呼び出してさ。授業中にもテキストがばんばん来て。もうジョンもいやんなって別れたんだよ。」

「へー」と言うしかない私。

ジョンはときおりガールフレンドのドームに泊まりに行くので、長男は自分ひとりで部屋を使える日があると聞いていた。

みんな18か19だが、男ばっかり振り回されているではないか。


         *


「ストーカーといえば、イギリスから来た子のほうはどうなったのよ。」

新入生向けのオリエンテーションで長男と意気投合し、入学後3日だけ付き合い、「なんか違うな」とお互いが納得して、ただの友達に戻ったアレックス。彼女は彼女で、半年ほど前にボーイフレンドと別れようとしたら脅され、長男やジョンに相談して彼らがその男の子と話をつけ、でも大学には通報しなかったという、ちょっと気になる展開だった。

「ストーカーのほうはもうあきらめたみたいだよ。でも、アレックスはdepression(うつ病)になってさ。」

「ホームシックなの? 勉強のストレスなの?」と私。

「いや、アレックスはイギリスにいたときからdepressionがあったんだって。それがひどくなったの。」

「大学にメンタルヘルスのサポートがあるでしょ。行ったの?」

「行ったよ。それで病院に行ったほうがいいって言われたんだって。2週間前だったかな。それでERに行ったよ。ちょうどお父さんとお母さんがイギリスから帰ってきてて、連れてった。それはいいんだけど、その前に僕に『ヘルスセンターにER行けって言われたんだけど、どうしたらいいと思う?行ったほうがいいと思う?』なんてテキストしてきたんだよ。授業中だよ。ぼくは、なに言ってんの、すぐ行きなよって」と、まあペラペラしゃべりまくること。

アレックスはまだ入院しているという。親御さんはイギリスに駐在しているが、そんな状態の娘さんをこのままにしておけないだろう。お母さんだけ残るのか。大学は休学するのか。


          *


「もー、なんかごちゃごちゃでさ。ぼく疲れた」と長男。

「まあ人生いろいろあるわよ。眠いんなら、少し寝たら? フェイスブックとかカードとか(くだらんこと)やってないで。」

長男はハイスクールの頃からなにかあると「疲れた」と言う。若い子がそんな口癖でみっともない、私なんか50年生きてんのよ、もっと疲れてんのよといつもは戒めるが、田舎でのんびり育ったぼんやり長男には、当事者でなくてもまいったんだろうと大目にみてあげた。

「うん。寝る。あ、そうだ。きのうPixarの新しい映画見たんだよ。大学のIDカードを見せるとタダで入れてくれるの。Monsters Inc って知ってる? あのprequelで、モンスターが大学生なの。むちゃくちゃおもしろいんだよ!ぼく大学行ってるから、あーわかるわかるってとこがいっぱいあった」と本当に楽しそうに報告する。アニメ専攻のルームメイトともう一人とで3人で出かけたという。

一般公開前に大学生に見せて反応を探ったらしい。どこで皆が笑うかなど、モニターしますと言われたそうだ。そういう企画なら大学町のボストンが最適である。ケンブリッジもボストンも、学生しか歩いていないような街だった。


         *


電話の向こうから機械音がしたので、「外にいるの? 地下鉄に乗ってるの?」と聞くと、「うん、ATMでお金出してる。」

「これからどこか行くの?」と聞くと、「ジャパニーズ・レストランに行くとこ。あそこのめちゃくちゃうまいんだよ!どんぶりにご飯が入ってて、その上になんか知らない日本の野菜があって、その上に切った豚カツがあって、ソースがのってんの。お母さんもぜったい食べるべきだよ!」と熱心に語る。

あんた疲れてるんじゃなかったの? 眠いんじゃなかったの? レストランまで歩いて10分か15分か。若いなあと思う。

「いいわねー、そんなおいしいもの食べちゃって。お母さんなんか、ダディと二人だと晩御飯作る気ぜんぜんないのよ。シリアルでもいいくらい。でも、なんか日本のご飯食べたくなってきた。うどん作ろうかなあ」と、こんな母親になるとは思っていなかった私。

長男だって、いつ「ドラマ」の登場人物になるやもしれず、映画の試写会やとんかつでウキウキしていられるうちが花である。

【追記】 テキストとは text message のこと。ウィキペディアによると、「SMSは日本を除く全世界で、携帯電話を利用して短いテキストを送受信する際の主流の通信手段である。」 詳しくはこちら



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長引く入院

2013.04.29 (月)


今週末、次男は外出許可がもらえなかった。

もしかしたら5月中に退院できるかもと思っていたが、このぶんでは長引きそうである。医療チームには私の里帰りの件は話した。

私が留守の間に退院し、通院となると、それはそれで心もとない。夫は事務手続きが苦手だし、予約や薬の手配なども任せられない。

焦って退院させるよりは、もう少し時間がかかってもじっくり治したほうがいいのだろう。ありがたいことに、病院内に学校があって、ハイスクールと打ち合わせしてカリキュラムも組んでくれる。

次男はすでに高校卒業に必要な単位はほとんど全部取れている。それでアドバンスのクラスをやっていたのだが、院内学校ではそのレベルで教えられる人がいないので、落とさざるを得なかった。

発病当初、私は勉強のこと、大学進学のことばかり心配していた。

病状の深刻さがわかっていなかったせいもある。長男より勉強のできる次男のほうがいい大学に行けるし、将来を考えてちゃんとした大学でしっかり勉強してほしかった。ジュニアという一番大事なときに、長期欠席していられない。翌年シニアの1~2学期までの成績で決まるのだ。

その後、医療チームから治療は長期戦になると告げられた。ただし、いますぐ命が危険だという話ではない。

それだけに私はいつ学校に復帰できるか、ずっとやきもきしていた。

長い時間がかかったが、春になってやっと私はあきらめがついた。


        *


夫は、1年遅らせて、もう一度ジュニアをやらせたほうがいいと主張した。

ハイスクールのガイダンスカウンセラーは、次男は友達と同じように卒業できると太鼓判を押してくれるが、大学へ出す成績にアドバンスコース履修の数が減ることとボランティアやスポーツもすっぽり抜け落ちることで、本来なら合格できる大学にも受からないかもしれないという理由である。高校で大学レベルの授業を受けておけば、単位が先取りできるし、大学での勉強にもなじみやすい。

「日本のおばあちゃんのところで1年過ごせばいいじゃないか。次男は長男とちがって、おばあちゃんとうまくやってたんだろう。ギャップイヤーと同じだよ。外国にいたっていうのはむしろメリットになる」と、なにもわかっていない夫は無責任なことを言った。

ギャップイヤーというのは、大学から合格通知をもらっているのにわざわざ入学を1年遅らせることである。その間に、ボランティアや旅行をして、大学生活を始める前に見聞を広めるのだ。学費のために働く人もいる。

治癒してもいつ再発するかわからない。そんな子を80歳の母に任せられない。だいたい次男も会話はできるが、読み書きは小学校1年レベル。田舎で友達もいないところで何をしろと言うのか。母と気が合ったというのも、あの子がたくさん食べるのを母が喜んだだけで、しかも5歳か7歳ごろの話である。ティーンエージャーになった今はどうなのか。

私は反対理由をこれでもかと述べたが、夫はしつこかった。

私には夫の無謀な考えが理解できず、平行線をたどっていた。私はその話題が出ると不機嫌になった。

幸い、医療チームが私の味方をしてくれて、とりあえずこの話は棚上げになった。だいたい、あまりにも先の話だ。それに、病気の治療が優先である。「あまり大学のことでプレッシャーを与えないでください」と医者は言う。

でも、夫はまだあきらめていないと思う。


        *


今の病院は2つ目で、健康保険だけでまかなった最初の病院とちがって州政府の補助が出る。長期治療のための施設なので、そうでもしなければミドルクラスは破産してしまう。

州の管轄部署に支払いの件で電話したとき、入院費は実質1日いくらかかるのか聞いてみた。

「1405ドルです。」

これだけ長くアメリカに住み、私が家のお金のことは全部やっているので、数字を聞き間違えることはめったにない。しかし、このときは聞き返した。金額の大きさにドキッとした。

「1405ドルとおっしゃいました? あの、1日で?」と私。

「そうです。でも、あなたの支払い分はもっと少ないですから。大丈夫ですよ。ざっと計算してみましょう」とお役人にしては親切だ。病気の子を抱える親を相手にする部署だからか。収入によっては無料になる場合もあるという。

「毎月の支払いは、451ドルです。」

「1日当たりじゃなくて、1ヶ月分ですね」と私は再度確認した。

電話を切ると、大きなため息が出た。それなら、1日15ドル(1500円)。払える。おかげで長期入院でもお金の心配はなくなった。1日14万円払っていたら、今頃は1000万円を超えていただろう。


         *


最初の病院でも今の病院でも、「次男くんの病気は、あなたのせいではありませんよ。誰のせいでもないんです」とことあるごとに言われた。

特に最初の頃、医療チームとのミーティングで私はたびたび泣いた。声は出なくて、涙がとめどなく流れた。病院からの帰り道、泣きながら運転したこともある。涙で前が見えなくなった。

唯一打ち明けた姉との電話でも泣いた。姉は次男よりも私の精神状態のほうを心配していた。

私は何年か前に主治医にもう必要ないと言われても、ずっと抗うつ剤を服用し続けて来た。そのおかげで、次男の発病後も極端に落ち込むことはなく、ふだんどおりの生活ができた。

それでも、自分のせいだという気持ちは大きかった。

偏食で繊細で小柄で勉強が苦手な長男にかまけて、勉強ができて体格がよく友達も多かった次男はほったらかしだった。次男が病気になってから、記憶をたぐりよせ、「もしかしてあのときのあれがいけなかったのだろうか」とか「そういえば、あんなこともあった」とか、迂闊な自分を責め続けた。

今も心の中では自責の念が拭い切れない。

あれだけ私を心配させた長男がちゃんと第一志望の大学に受かって、あんなに楽しそうにやっている。

私は心配する相手を間違えていたのではないか

子どもが苦手な私がなぜ二人目を生もうと思ったんだろうと後悔した。それは一瞬のことだったが、なかなかよくならない次男の辛さを想像しては、そんな思いをさせてしまった自分を責めた。私は母親になるべきではなかったのではないかと思った。私にはそういう資質はないとよくわかっていたのに、どうして子どもを生もうと思ったんだろう。

「ぼく、もう家に帰りたい。もうよくなったよ」と言われて、「そうだよねえ。でも、ちゃんと治ってからでないとねえ」としか答えられない日が続く。


         *


次男の発病のことをブログに書いてから、非公開のコメントがいくつか来て、なかにはお子さんを亡くした人もいた。

姉の友達の息子さんが中学で発病して、大学1年生のときに再発して亡くなった。私は親しくなかったので、姉もわざわざ知らせなかったそうだ。次男が病気になってから、初めて姉が教えてくれた。2年前のことだったという。

おそらく次男はこの病気と一生付き合わなくてはならない。

それでも生きてるだけでラッキーなのかなあと思う。

私は年明けに定期健診に行き、なんでも話している主治医のドクターBに、次男のことを打ち明けた。彼女は両手で私の手を包み、「あなたのせいじゃないわよ。きっとよくなるわよ」と慰めた。フランス系の彼女はカソリックらしく、次男のためにお祈りすると言った。

無神論者の私は、お祈りして治るなら医者はいらないでしょとお医者の前で思ったが、サンキューと答えておいた。

夏に飛行機に乗るかもしれないと言って、パニック障害のための薬を処方してもらった。前に出してもらったのはすでに期限が切れていた。墜落が不安なのでなく、高度が下がるときの吐き気対策として服用する。

ドクターBは、「飛行機に乗らなくても、必要になったら飲みなさい」と勧めた。その頃はまだ次男の病気が受け入れられず、私は危なっかしく見えたのかもしれない。でも、まだ一度も飲んでいない。

明後日には、また医療チームとのミーティングがある。



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